アスベスト訴訟 遅延損害の起算はがん診断日から 神戸地裁判決 国の主張退ける

アスベスト(石綿)が原因で肺がんを発症した患者2人が国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、神戸地裁(阿多麻子裁判長)は17日午前、請求通り国に約2300万円の賠償を命じた。争点だった賠償金の利息に当たる遅延損害金(年5%)の起算日についても、患者側の訴えを認めて「肺がんの確定診断か、その前提となる手術を受けた日」と判断し、「労災認定された日」とする国の主張を退けた。
石綿による健康被害を巡っては最高裁が2014年、大阪・泉南地域の訴訟で国の責任を認定。その後、国は要件を満たしている被害者と訴訟で和解する際、一貫して遅延損害金の起算日を「労災認定日」としてきた。患者側の弁護団によると、今回と同様の司法判断は「肺がんの疑いと診断された日」と認めた今年3月の福岡地裁小倉支部判決=福岡高裁で係争中=に次いで2例目。17日午後には広島地裁で3例目の判決が言い渡される。
判決で阿多裁判長は「被害者の不利益は肺がんが発症したこと」と述べ、起算日は不利益が生じた時点にすべきだと説明した。
判決などによると、患者2人は兵庫県内の工場で石綿関係の仕事に従事し、肺がんを発症した。このうち、鳥取県日野町の遠藤利美さん(80)は1964~65年、兵庫県尼崎市のクボタ神崎工場(当時)で下請け会社の従業員として3カ月間、石綿水道管の製造に従事。12年4月に肺がんと診断され、15年6月に労災認定された。
遠藤さんは17年7月、慰謝料など1265万円と遅延損害金を求めて提訴。支援団体などによると、判決が確定し、起算日が約3年早まることで、遅延損害金は約200万円増える。
判決後、遠藤さんは神戸市内で記者会見し、「不安でつらかった時期を振り返ると、国の言う通りに和解できなかった。良い判決をもらった。国は真摯(しんし)に受け止めて控訴しないでほしい」と述べた。
厚生労働省労働基準局総務課石綿対策室は「判決の詳細は把握していないが、国の主張は認められなかったと認識している。内容を精査し、対応を検討したい」とのコメントを出した。【望月靖祥、黒詰拓也】