岐路に立たされた東京モーターショー

今年は東京モーターショー(TMS)の開催年である。回を重ねること46回。伝統ある自動車ショーだ。ひとまずは開催スケジュールから書いておこう。

障がい者手帳を持つ人に向けた特別招待日は、10月24日(木)から。芋洗いを避けたい人のために設定された、人数限定のプレビューデー(入場料3800円)が25日(金)9:00~14:00。同日の14:00以降、11月4日まで一般公開日(2000円)となっている。また16:00以降1000円のアフター4入場券などもある。詳しくはオフィシャルサイトで確認して欲しい。

東京モーターショーのあるべき姿
さて、筆者はTMSについて厳しい記事ばかりを書いてきた(記事「東京は上海に勝てるのか?」、記事「東京モーターショーで見ても無駄なクルマは?」参照)。

「夢のあるクルマを見たい」という人は多いが、夢もほどほどにしないとただの嘘になってしまう。例えば最近ちょくちょく空飛ぶクルマのニュースが出回るが、あれが東京の空を飛ぶことが、本当に社会に受け入れられるかどうかを考えれば、あまりにも遠い未来の話だと分かるだろう。可能性はゼロではないかもしれないが、今から期待して待つには遠すぎる。

航路が厳しく制限されて、海や原野の上しか飛ばないのなら可能性があるかもしれないが、それではパーソナルモビリティが空を飛ぶことの利便性が失われる。道にとらわれることなく、山も川も無視して一直線に目的地を目指したいから空を飛ぶのだ。

しかし自宅や会社にそれが落ちてくる可能性を考えたら、飛行プランの届出も無しに自由にどこでも飛べる未来が実現するかどうかは、大人の良識で想像できるはず。SF映画ではないのだ。

自動車という製品はすこぶる社会的存在であり、さまざまな面で人の命を奪い、健康を損なう可能性がある。だからこそZEV規制やCAFE規制などの環境規制、衝突安全規制など多くの規制があり、それらに適合できない製品は世に出ることはない。そうした現実のルールを無視したショーカーは、「最高時速マッハ3。核融合炉を搭載したゼロエミッションカー」みたいな話と同じで、現状ただのフィクションに過ぎない。

成熟した国のモーターショーでは、地球と人類の未来のために、社会が取り決めたルールを守りつつ、10年先にわれわれが買えるクルマを提示するべきだ。そういうことを書いてきた。百歩譲って、従来のやり方で結果が出ているなら現状維持も検討に値するが、肝心の結果の方はなかなかにひどい。

海外メーカー離れの中で
TMSの主催団体である日本自動車工業会(自工会)は、前回にも増して厳しい危機感を持っている。「このままではTMSはなくなる」――自工会はそれを極めて恐れている。

すでに海外メーカーからは完全にそっぽを向かれ、日産と不可分のルノーを別にすれば実質出展する海外メーカーはメルセデス・ベンツ/smartだけだ。純粋なメーカーでないケースをカウントしても、アルピナが加わるだけというとても寂しいことになっている。

本質的には日本の自動車マーケットがあまりにも輸入車に対して排他的なことが理由だろう。世界の自動車先進国で自国ブランド製品が販売シェアの90%オーバーなどという国は、他に例を見ない。

要するに日本では外車が売れない。海外メーカーからすればつれない国だ。それでも何十年もTMSに付き合ってきたが、いまやそんな予算があるならクルマが売れる新興国に回したいというのが本音だろう。

ただし、そういう実利以外にも、ある種の流行りというか、日本のショーをパスすることがちょっとブームのようになっている部分もある。例えばランボルギーニにとって日本は、台数ベース、金額ベース、シェアベースとどんなカウント方法でもトップ3に入る超重要マーケットだ。であるにも関わらず日本をパスするのである。こういう状態を何とか逆転しないと未来がないことに、すでに自工会は気づいている。

豊田会長の連投と会場不足
そこで今回大幅なテコ入れを始めた。筆者の見る限り、トヨタ自動車の豊田章男社長が、前例を破って2回目の自工会会長に就任したことが大きい。日産自動車の西川廣人社長が、自社の完成検査問題を機に自工会会長を辞任したことを受けての緊急再登板という背景もあるが、結果的に前の2年にほぼ引き続く形で、会長職を引き受けることになったため、1期2年ではできなかった改革に着手できるという点が大きいと思う。

内部の実態は分からないが、筆者の目から見てやり方がとてもトヨタっぽい。それはどういう意味かといえば、クルマ業界だけでなく「オールインダストリー」で広く開催し、未来のモビリティ社会に向けて「オープン」に進化/拡張していくと定義しているあたりだ。

時まさにCASEの胎動期であり、自動車産業だけでは未来が切り開けない。だからこそオールインダストリーという主張は、従来からトヨタが言ってきたこととピタリとシンクロする。

もっと言えば、こういう行き詰まり感のある局面で「選択と集中」ではなく、あらゆるものをタブーなく組み込んで行く物量作戦的戦い方もまたトヨタ式である。

例えば、東京オートサロンと結んでチューニングカーやカスタムカーを展示したり、モータースポーツジャパンや日本スーパーカー協会と結んでレース車両やスーパーカーのデモランや展示を行ったり、e-Motorsportsと提携してeスポーツ(ゲーム)の世界大会を組み込んだり、キッザニアとの提携では子供が自動車産業で働く街を作ったりというように、もう考え得るあらゆるものを詰め込んだ玉手箱になっている。行き先が分からない時は、お高くとまっていないで、成功している他のイベント主催者に頭を下げてでも全部やってみる。このやり方もとてもトヨタらしい。

要は考え方だ。従来のTMSは、自工会が場所だけ用意して各メーカーに丸投げしたものだった。言葉を換えていえば、どうにもこうにも権威主義っぽさが抜けなかった。そもそも自動車ショーというものは、権威的である。ナショナルブランドのメーカーが、役所を頂点に担いで最先端のテクノロジーを発表展示する。そこにはそこはかとなく国威高揚のような雰囲気が漂う。それを全部無くしていいわけではないが、一方でもっと来場者中心に変わっていかなければならない。

海外メーカーが背を向けた今、初めて自工会は自分たちで、多くの人に来場してもらい、楽しませるとは何なのか、どうしたら価値あるイベントになるのかを考えざるを得なくなった。そういう意味では、これこそTMSの真のスタートラインだともいえる。権威主義から脱却して、来客者を中心にする。

という中で、メディアとの付き合い方も変えた。いままで新聞を主体とする大手マスメディアばかりと付き合って来た自工会が、方針を変え、折に触れて自動車ジャーナリストたちをレクチャーに呼び(念のために書いておくが無償である)、自工会やTMS事務局が何をしようとしているのかを説明するとともに、意見を求めるようになった。文句を付ける記事ばかりを書いてきた筆者をその中に加えれば、ダメ出しばかりするのを承知で意見を求められるあたり、自工会の改革マインドの本気ぶりがうかがい知れる。

だから、今回のTMSに関しては、日本の自動車産業界の改革意識を見て回るという面において相当に面白いものになると思う。ただしそれがモーターショーとして面白いかどうかはまた別である。ジャーナリスト向けレクチャーの配布資料の最終ページには、「東京モーターショーも大きく変わります。皆様も一緒になって東京モーターショーの盛り上げをお願いします」というある意味悲痛なメッセージが大書されている。

ひとりのもの書きとして、日本経済の応援をするのはむしろ望むところだが、日本経済と自工会の利害が必ずしも一致しない可能性がある以上、筆者としてはそこは是々非々の姿勢は譲れない。良ければ褒めるし、ダメなら批判する。

変革の内容
さて、われわれの前に提示された第46回TMSはどうなのか? もちろんそれはまだプランに過ぎない。しかもこの4月からは、東京オリンピック/パラリンピックのために東京ビッグサイトの一部が閉鎖されて会場面積も足りない。

そこで今回のTMSは、有明から青海にかけて「東京臨海高速鉄道」の、国際展示場駅から東京テレポート駅の間約1.5キロにまたがって会場が分割される。東端の「東京ビッグサイト西・南棟」と西端の「東京ビッグサイト青海展示棟」をメイン会場とし、西側に隣接する(といってもあの辺は区画が大きいので歩くと遠いが)TFTビル横の駐車場では2輪4輪の「体験試乗系コンテンツ」が用意される。

そこから「夢の大橋」を含む両会場の連絡路を「OPEN ROAD」と名付け、電動キックボードやセグウェイタイプのパーソナルモビリティ、そして超小型自動車など、現在の自動車移動の下の領域を受け持つ20社77台の乗り物が展示され、その多くを試乗することができる。

これに加えて、Mega Webでは自動車産業のみならず、オールインダストリーで取り組むFUTURE EXPOが開催される。これはCASEをはじめとする先進テクノロジーやサービスを体感できる施設になる。

さて、今回OPENという言葉にふさわしいのは、東西両端の会場に入らない限りチケットが要らないことだ。ただし、試乗系のイベントに際してはチケットが必要になる。しかし4会場のうち2会場とそれを結ぶOPEN ROADは誰でも無料で見ることができる。

こういうオープンなショーはこれまで無かった。もちろん会場の都合という外的な要因はあったにせよ、少なくともプランニング上では変化の兆しは感じられる。あとは現地現場がどうなるかだ。そこは蓋を開けてみてのお楽しみということだろう。入場券を買わずに見られる部分だけでも、あなた自身の目で確認してみてはいかがだろうか?

(池田直渡)