感染拡大を受け、日本政府は3月9日、中国・韓国からの入国制限を発動した。この政府の対応は遅きに失した感が否めない。思い返されるのは、国内での感染拡大前からいち早く「中国人お断わり」を掲げ、批判を浴びたあの商店主だ。
「正直なところ“いわんこっちゃない”という気持ちはあります。初めから(入国制限を)しておけば、感染拡大も防げたかもしれない……」
そう語るのは、1月中旬に〈中国人は入店禁止〉との張り紙を掲げて話題になった、神奈川・箱根の駄菓子店「ハウスベイダー」の男性店主だ。
店主がその張り紙を掲示すると、朝日新聞が〈掲示に批判も〉(1月22日付朝刊)の見出しで報道。国内外から「人種差別だ」との批判が殺到した。
当時、店主は本誌・週刊ポストに、
〈度が過ぎていた点は心から反省します。ただ、何よりも大きかったのはコロナウイルスへの恐怖でした〉〈政府が外国人旅行者への対策、措置を発表していれば別ですが、現実は民間に丸投げ。(中略)国民の命はいいのか、という思いもあります〉(2月14日号)
と心境を打ち明けた。彼の心配は的中した。今となっては、政府の措置が完全に後手を踏んでいたことは明らかだ。
中韓からの入国制限が行なわれた現在、店主はどう感じているのか。再び店を訪ねると、出てきたのが冒頭の言葉だった。店主はさらに続ける。
「中国政府は国民の団体旅行を(1月27日時点で)禁止していたけれど、日本の対応は後手に回っている。WHOも今頃になってパンデミック(感染爆発)と言い始めましたが、とにかく遅いと思います。
未知のウイルスなので誰も治せないことは分かっていた。ならば、経済が多少停滞しても、初期の段階から国内外の渡航を禁止しておけば、こんなことにはならなかったのではないか」
箱根への観光客も激減する中、営業への打撃も深刻だという。
「箱根の観光客が減って店の客足も遠のいています。ウチのような零細業者もそうですが、旅館は非常に厳しい。
中国人向けに商売をしていた旅館が倒産し始めている。箱根の老舗旅館には素泊まりを5000円を切る安さで出しているところもある。そういう悲鳴を知ってか知らずか、人の密集する場所には行くなと言って経済に打撃を与えているのは政府だと思います」(同前)
感染症学が専門の山野美容芸術短大客員教授・中原英臣氏(医学博士)は「店主の主張には頷ける」と話す。
「入国制限とは、感染症の初期に国内に持ち込ませないようにする“水際作戦”です。国内でこれだけ拡大した後では効果がないとは言いませんが、『今さら遅い』と批判されても仕方ない。観光業への影響も大きくなってしまった。入国する中国人・韓国人に2週間の待機を要請すると言いますが、入国者がどこまで応じるかは分かりません。
むしろ今は、国内での感染者・死者数の拡大を抑えるために、重症化しやすい高齢者の感染対策のほうが重要です。政府のやり方は賢明とは言い難い」
習近平・国家主席の訪日や東京五輪への影響を懸念して入国制限に踏み切れなかったとの指摘も上がる。2か月前の店主の行動を、今も指弾できる日本人はいるだろうか。
※週刊ポスト2020年3月27日号