懸賞小説の闇ってあるんだよ-。直木賞作家の志茂田景樹さん(79)が自分のブログに、アニメ制作会社「京都アニメーション」の放火殺人事件に寄せた文章を載せた。事件では、京アニに作品の投稿経験があるとみられる青葉真司容疑者(41)が「パクりやがって」と話していた。懸賞への投稿を続けた末に作家になり、見知らぬ人物に「パクっただろう」と詰め寄られた経験のあるという志茂田さんに、「闇」について尋ねた。
ブログに掲載したのは、《僕も懸賞小説を唯一の手がかりにもの書きの世界に這(は)い上がっただけに その闇のおぞましさは承知してるのよ》などというタイトルの文章だ。
この中で志茂田さんはまず、自分が世に出る前のころを「職を転々としてきた僕には出版の世界に手がかりがない。新人賞と称する懸賞小説に応募し受賞するしか道はなかった」とひもといた。志茂田さんは取材に対し、当時のことを「大学卒業後、新聞の求人広告を頼りにした『風来坊的な人生』を送っていたが、不安定な生活を変えたいと小説家を目指し、投稿を始めた」と振り返った。
ブログでは、懸賞小説の応募者の中には「本人は傑作のつもりで、いずれは受賞すると思い込んでいる」「なぜ俺の作品が最終候補作にもならないんだと(編集部に問い合わせる)」人もいて、「ここから懸賞小説の闇が始まる」と指摘。
自分が巻き込まれた例として、駆け出しの頃に男に呼び止められて「お前、俺の小説パクったろ」といきなり胸ぐらをつかまれた-と挙げ、「闇を実感した」と述懐。そうした人の内心を「闇に浸ると思考が著しく偏り、その闇が醸成する」と分析している。
事件では、発生から2カ月が経過した今も青葉容疑者から事情聴取はできず、動機は解明されていない。志茂田さんは取材に「胸ぐらをつかんできた男の憎しみに満ちた目を思い出した」としたが、普通は「胸ぐらをつかんで文句を言う程度が関の山」と指摘。青葉容疑者は闇に取り込まれる前から「人間性を大きくゆがめていた」とし、「受賞できなかったことを恨み、凶行に及んだ」と推察した。
取材に対し、「僕も当時選外が続いていれば、闇に取り込まれていたかもしれない」と告白し、「投稿作品を読んでくれた親友らが励ましてくれ、書き続けるモチベーションを維持できた」と打ち明けた志茂田さん。今回ブログでは、懸賞小説の闇を指摘しつつ、「(ほとんどの人は)いずれ闇から抜けて、それぞれの道を見つけて、それぞれに自分らしい人生を築いたはずだ」と締めくくっている。