南海トラフ巨大地震の津波浸水想定区域内にある和歌山県御坊市役所。建て替え計画が進んでいるが、新庁舎の建設予定地は現庁舎南側の駐車場で、新しくなっても同区域内に市役所が残る状態は変わらない。計画を進めてきた現職の柏木征夫市長は2020年3月に引退を表明。5月には市長選が実施される予定で、新庁舎建て替え計画をどうするか、争点の一つになりそうだ。【山本芳博】
1973年に建設された現庁舎は耐震基準を満たしていない。そのため、市は建て替えを計画し、2021年9月に着工、23年10月に供用開始を予定している。
市が建て替え場所を現庁舎の隣接地にこだわる理由は、立地の利便性だ。現庁舎は、商店街や住宅地が密集する市中心部にあり、国道42号にも面している。柏木市長はこれまでの取材に「現在地の近くには法務局や郵便局などがあり便利だ。市中心部に適当な高台もなく、新庁舎は一時避難所にもなる。人口の多くを占める周辺住民を置いて遠くへ移転するわけにもいかない」と話している。
一方で、南海トラフ巨大地震が起きれば、津波で3.2メートル浸水することが想定されている。新庁舎の基本設計では、予定地の駐車場の液状化対策をしたうえ、庁舎1階は津波が通り抜けられるように多目的ホールや倉庫だけにする計画だ。
商議所や自治会など地元関係団体の代表者らでつくる「市民懇話会」のメンバーで、和歌山高専の小池信昭教授(津波工学)は「大津波の対策として、市単体ができる限りのことをしている」と評価する。
では、市民は現在の建て替え計画をどう受け止めているのか。市が2017年10月、来庁者に実施したアンケート調査(486人回答)の自由記述では、高台移転を求める声が、現在地での建て替えを臨む声の3倍程度あったという。市役所周辺地域に住む女性は「地震や津波が来た後に、復興の中心は市役所になる。でも今の場所では庁舎が水浸しになる。住民が市役所を頼ろうとしても、たどり着くことさえできないかもしれない」と不安を漏らし、高台移転を望む。
建て替えの総事業費は56億円。国の補助金で22.5%を賄う予定だ。受け取るための条件は、業者を選んで20年度中に詳細な設計「実施設計」を開始すること。仮にこれまでの計画を白紙に戻し、高台移転を再度計画するのなら、今の枠組みで予定している補助金は受け取れない。
現状の計画を止めるには、金銭的なリスクも負う必要がある。それでも市民の安全のため、高台移転にかじを切る候補が現れるか。市長選が注目される。