保釈中も特殊詐欺の「かけ子の先生」仰天の再犯動機

高齢者から多額の現金をだまし取る特殊詐欺グループのメンバーとして逮捕・起訴されていた男が今年2月、保釈中に新たな特殊詐欺に加担したとして、詐欺容疑で大阪府警に逮捕された。男は自身の罪を軽くするため、被害弁済に充てる金を集めようと再び特殊詐欺に手を出したとみられる。保釈中の被告の再犯が、年間300億円もの被害が出ている特殊詐欺にも及んでいる実態が明らかになった。
犯行は保釈の1カ月後
「友達と一緒に株を買ったが失敗した。400万円を返さなければ警察沙汰になってしまう」
昨年5月、大阪府吹田市の70代女性宅に、息子をかたる男からこんな電話があり、話を信じた女性は100万円をだまし取られた。
電話をかけたのは、高齢者をだます巧妙な話術から、特殊詐欺グループ内で「かけ子の先生」と呼ばれていた岡野雄一容疑者(27)=兵庫県川西市。府警は今年2月、この女性に対する詐欺容疑などで岡野容疑者を逮捕した。
実はこの事件が発生する半年ほど前の平成30年12月にも、府警は別の詐欺未遂事件で岡野容疑者を逮捕していた。
捜査で次々と明らかになった余罪。被害者の中には約1900万円をだまし取られた高齢女性もおり、結果的に岡野容疑者は計4件の詐欺や詐欺未遂罪で起訴されたが、昨年4月、保釈金400万円を納めて保釈された。新たな特殊詐欺に手を出したのは、保釈からわずか約1カ月後のことだった。
捜査関係者によると、同年6月には、特殊詐欺グループの仲間で、同じく保釈中だった20代の男に「被害弁済して執行猶予もらうんか、何もせんと3~4年(刑務所に)入るんか」と脅し、詐欺への加担を迫っていた。
当初、岡野容疑者の裁判は今年3月中旬に結審する予定だった。府警は、岡野容疑者が仲間を集めて短期間で多額の現金を集め、すでに起訴された事件の被害弁済に充て、量刑を軽くしようとしていたとみて捜査を進めている。府警によると、保釈中の事件だけでも被害額は1千万円以上にのぼる可能性があるという。
「悪質なのに…」憤る捜査員
日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告のレバノンへの逃走劇でも注目された保釈のあり方の問題。最高裁や法務省によると、裁判所が保釈を許可する割合(保釈率)は、21年の15・6%から30年には32・1%と倍以上に上昇している。
一方で、保釈中に別の事件で起訴される被告も20年の102人が30年には258人に急増。罪種で分けると、覚せい剤取締法違反が103人で最も多く、窃盗が79人、詐欺が14人と続く。
警察庁によると、昨年1年間、全国で1万6836件(暫定値)の特殊詐欺事件が発生。被害額は約300億円(同)で、特殊詐欺の撲滅は大きな課題となっている。
府警は岡野容疑者が関わっていた特殊詐欺グループのメンバー計16人を摘発。判明しているだけでも被害者は20人で、被害額は4370万円にのぼっていた。
ある捜査関係者は「これだけ悪質なのに、なぜ保釈したのか。逮捕したことで被害も止まっていたのに、保釈によって確実に防げたはずの被害が発生してしまった」と憤る。
常磐大の諸沢英道元学長(刑事法)によると、刑事訴訟法では保釈請求があれば、証拠隠滅や逃亡の可能性がある場合を除いて原則認めなければならず、「再犯の可能性」は保釈を判断する要件に入っていない。諸沢元学長は「特殊詐欺事件のように社会的弱者を狙う悪質な犯罪は社会に与える影響も大きい。新たな被害者を生まないという社会防衛の視点から保釈制度や要件について見直す必要がある」と指摘している。