新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受け、東京都内の保育園や学童保育は、休園や休止が続々と決まりつつある。「今後どうやって働くのか」。子どもを預ける保護者は頭を抱えるが、保育園側からは「社会的使命で続けてきたが限界」という声も。保育園の休園は、感染防止の難しさを改めて浮き彫りにする。
7日夕。東京都渋谷区のある保育園から、水色のバスタオルを抱えて自営業の男性(44)と長女(3)が出てきた。同区は保育園の休園をすでに決めている。「明日から休みなので昼寝用のタオルなど荷物を持ち帰るところ。休園で子どもの世話は大変になる」と男性は語る。この保育園では夕方過ぎから、荷物を抱えながら帰宅する親子が続いた。
渋谷区の別の保育園には3歳の次女を小1の長女(6)と迎えに来た公務員の男性(39)の姿があった。この日は仕事を休んだといい「今日は休めたが、毎日は無理。渋谷区は学童保育も休みになる。祖父母は地方におり、東京に呼ぶわけにもいかない」と困惑した様子だった。同じ保育園に来ていた女性(65)は「3歳と1歳の孫を預けている。休園は本当に困るし、同じ思いの人はたくさんいるはず」と強調する。
登園自粛を呼びかけながら開園の継続を明らかにしている大田区の保育園には7日も多くの親子が通っていた。
ただ、子供を預けることに複雑な思いを抱える保護者もいた。1歳の双子男児を預けている自営業の女性(36)は「ありがたさ半分、申し訳なさ半分という気持ち。収入も減っている中で簡単に休めないが、この状況で保育士さんたちに出てきてもらって、申し訳ない気持ちもある」と語る。
保育園だけでなく、学童保育でも休止が相次ぐ。渋谷区の施設では休止前の7日夕方、職員らに翌日以降の対応について尋ねる保護者や、自宅に上履きを持って帰る児童の姿が見られた。
小学1年の男子児童(6)を迎えに来た母親(45)は休止することを取材で知り「明日からどうしよう」と困惑した表情を見せた。在宅勤務ができる仕事ではないといい「家に一人にしておくのは心配。急に仕事を休めないので、近くに住む友達に預けるくらいしか選択肢が思いつかない」と話した。
一方、この日、名残惜しそうに友達と遊んでいた小学1年の女子児童を迎えに来た30代の母親は「休止になって良かった」と話した。母親は学童保育が利用できるため、会社を休むことができなかったという。「学童は集団行動しているので感染のリスクが高いはずで本当は預けたくなかった。休止になったので会社を休むことができる」と明かした。
都内では渋谷区が保育園と学童、世田谷区は学童を休止することが決まっている。さらに中央区と豊島区は保育園と学童を休止する方針だ。休園する3区の認可保育園には約1万5000人の園児が通っている。
保護者の思いはさまざまだが、休園の決定を歓迎する保育園は多い。渋谷区にある保育園の園長は「社会を支える縁の下の力持ちという誇りを持ってやってきたが、子どもに感染しないか不安もあった。区の判断は正しいと思う」と受け止める。
別の園長は園児と接しながら感染を防ぐ難しさを強調する。「保育園ではだっこにおんぶで超密着。感染の確率が高い。保護者には申し訳ないが、社会情勢を無視するわけにはいかない」。同区の別の園長も「保育園は命を守ることが第一なので仕方ない」と話す。
原則は開園する方針を固めている大田区だが、区内の保育園は否定的だ。同区で保育園を運営する50代の女性園長は「複雑な気持ち。子どもと距離を置いて育児なんてできない」。別の園長も「働く人を支援する気持ちは分かるが、感染者が出れば責任を問われる。保育士も疲弊しており、休ませたい」と吐露する。
【安達恒太郎、李英浩、国本愛、椋田佳代】