急ピッチで進む検察捜査 ターゲットは河井克行前法務大臣

河井克行前法務大臣をターゲットにした検察捜査が、急ピッチで進められている。

入り口は夫人の案里参院議員の公職選挙法違反事件だったが、既に公設秘書らを買収罪などで起訴、連座制での案里氏の失職は確実になった。

以降、捜査する広島地検は、買収を指揮したのが克行氏だという疑いを強め、東京、大阪などから検事を集め、広島県内の首長、県議、市議らを呼び、精力的な参考人聴取を行っている。なかには小坂真治安芸太田町長のように、昨年7月の参院選前に克行氏から「20万円入りの封筒を受け取った」と証言する人もいる。他にも現金授受を認めた政界関係者はいて、「票を取りまとめてもらう意図が克行氏にあったかどうか」が捜査の焦点となる。

検察は本気だ。昨年末、東京地検特捜部がカジノに絡む贈収賄事件で、秋元司・元内閣府副大臣を逮捕したばかり。政治家逮捕は鈴木宗男事件以来、17年ぶりだった。その直後といっていい今年1月15日、広島地検が河井夫妻の強制捜査に着手。内容は車上運動員(ウグイス嬢)に法定上限を超える日当を支払ったというもの。ここで官邸VS検察の構図が固まった。

「官邸は1月31日の閣議で黒川弘務東京高検検事長の定年延長を決めました。同15日の捜査を目の当たりにして、『どこまで政権に歯向かうのか』と菅(義偉)官房長官が怒ったのが原因です。河井氏は菅氏を囲む『向日葵会』の代表ですからね。黒川氏は『官邸代理人』と呼ばれるほど菅氏と近い。だから定年を延長させて次期検事総長にしようとした。それに検察が反発、捜査継続で意地を見せた」(検察関係者)

■ネックはコロナ拡大

高検検事長の定年は63歳。黒川氏は2月8日に定年を迎えるので、かねて官邸は検事総長である稲田伸夫氏に2月7日までの退任を迫っていた。

ところが稲田氏は、「検事総長人事は検察で決める」という不文律にのっとり、林真琴名古屋高検検事長に譲るつもりで官邸の言うことを聞かなかった。いかに「安倍1強」とはいえ、総長を辞めさせる権限はない。「黒川退任もやむなし」と官邸も諦めていたところ克行氏に手を出した。安倍氏にとっても捜査は論外。案里氏は、かつて自分を「過去の人」呼ばわりした溝手顕正・元防災相に送り込んだ刺客であり、通常の10倍の1億5000万円の軍資金を案里陣営に渡している。

検察は意図的な捜査であることはおくびにも出さず、「犯罪があるからやるだけ」と粛々と進める。ただ、逮捕の可能性があり、その際は許諾請求が必要なだけに、事件を東京地検に移送させる方針。それだけ河井夫妻は追い詰められているが“救い”もある。「コロナ騒動の最中に東京に被疑者を送り込んで捜査できるのか」という声であり、新型コロナの影響が事件にも及んでいる。

(伊藤博敏/ジャーナリスト)