酒を飲んで仕事の不安から一時的に逃れても、職を失ってしまっては元も子もない。大阪府の男性職員(64)が3月、勤務中に飲酒を繰り返したとして戒告処分を受けた。男性職員は4月以降も雇用を1年延長できたが、処分を受け自ら退職の道を選んだ。アルコール依存症と診断される高齢男性は近年少なくない。専門家は「自力回復は困難」として相談を呼びかけている。(井上浩平)
ざるそばをアテに
府によると、男性職員は府庁勤務で定年を迎えた後に再雇用され、文化事業や観光振興などを担当する府民文化部に所属していた。
勤務中の飲酒が初めて発覚したのは昨年6月25日。府内の最高気温は31度を超え、真夏日だった。「暑くてのどが渇いた」。1人で府内に出張した男性職員は昼の休憩時にコンビニエンスストアで缶チューハイ(250ミリリットル、アルコール度数8%)を1本買い、その場で飲み干した。
赤ら顔で大阪市内の府庁に戻った男性職員は酒のにおいを漂わせ、普段より声も大きかった。異変に気づいた上司が「酒を飲んで仕事はできない」と注意し、年休を取って帰宅するよう命じると「わかりました」と従ったという。
それから2カ月後、愚行は繰り返された。男性職員は再び1人で出張した9月4日昼、コンビニで6月と同じ缶チューハイを2本購入。1本は店の前で空け、もう1本は出張先の府の施設事務室で、ざるそばを“アテ”に飲んだ。この日も庁舎に戻った後、上司に注意され帰宅している。
「節度守る」と誓い
府の聞き取りに男性職員は「仕事がうまくいかず、不安やイライラから飲酒した。6月に上司から注意を受けたことは、9月時点で頭に残っていなかった」と説明した。
男性職員は調査に「勤務中に飲酒したのは、2回だけ」と主張。短期間で2度も勤務中の飲酒が発覚し、昼食とともに缶チューハイを飲むなど慣れた様子だったことから、常習性を指摘する声もあったが、府の担当者は「疑いは残るが、2回以外に飲酒の事実は確認できない」とする。
府は再発防止のため、全職員にメールで男性職員の飲酒事案を周知。今年3月19日付で戒告処分が出た後、吉村洋文知事は記者団に「非常に残念だ。府民の理解も当然得られない。厳しく対応していく」と語った。
男性職員は2回目の飲酒発覚後、職場で「翌日に仕事がある日はプライベートでも酒を飲まない」と誓いを立てたが、処分に際し、府の人事担当者に「公務員として適当ではない」と話して退職を決めた。
承認欲求満たされず?
男性職員のケースについて、依存症の回復支援団体「ワンネスグループ」(奈良県大和高田市)の相談担当、真篠(ましの)剛さん(42)は「飲酒をコントロールできず、仕事中に飲んでしまうのはアルコール依存症のパターンの一つ」と指摘する。
厚生労働省の平成25年の調査によると、約109万人のアルコール依存症患者のうち、男性は約95万人、女性は約14万人だった。
厚労省が29年に公表した、高齢者約15万人を対象とした飲酒量に関する調査では、酒を飲む65歳以上の男性の半数が、適正量とされる「1日当たり日本酒1合」以上のアルコールを摂取しているとの結果が出た。
真篠氏は「アルコール依存症は離職や死別、離婚などをきっかけに発症する人が多い」と言及。再雇用された今回の男性職員については「現役時代と違って承認欲求が満たされず、酒で埋める人もいる」と分析する。
アルコール依存症を自力で克服することは難しいという。真篠氏は「本人は家族や会社に打ち明け、酒を飲めなくなったり仕事を失ったりすることが嫌なので隠す。自助グループや依存症専門外来のある病院など、安心して話せる場所を用意することが重要だ」と訴えた。