国内最大の6代目山口組や、住吉会、稲川会などで、組員の新型コロナウイルスへの感染情報が飛び交っている。なかには、暴力団業界全体に強い影響力を持つ山口組幹部が感染したとのフェイク情報も流され、警察当局が確認に追われる一幕もあった。
さらに、外出自粛の影響で“夜の街”からの「みかじめ料」、イベントでのテキヤ稼業の収入が減少し、暴力団のシノギ(資金獲得活動)も苦しい状況に追い込まれている。
山口組幹部をめぐるフェイク情報が拡散
緊急事態宣言が出された4月上旬、SNS上に発信者不明の情報が駆け巡り、警察当局も確認に追われる事態となった。
〈六代目山口組若頭高山清司氏、他三名、部屋住み二名、コロナ感染の疑いで、救急搬送。検査の結果、陽性〉(一部略)
6代目山口組系の現役幹部は、次のように解説する。
「(対立している)神戸山口組が流したフェイク情報ではないかと見ている。全くのウソ。こういう情報を流して何か得することがあるのか、目的が分からない。場合によっては、稼業とは全く無縁の素人さんのイタズラかもしれない。どちらにしても、意味がない情報だ」
情報はSNS上で瞬く間に流れ、警察当局も当然ながらキャッチした。事実であれば重大な情報のため、それゆえ振り回されることになったが、愛知県警の捜査員が高山の姿を確認。新型コロナウイルスに感染している様子はなく、警察当局もフェイク情報との見方を固め、騒動は落ち着くこととなった。
とはいえ、6代目山口組では兵庫や大阪の団体、稲川会でも都内の団体などで、具体的な感染例が次々に報じられている。
「新型コロナで重症化しやすいと言われているのは『高齢者』と『喫煙者』。暴力団員は高齢化が進んでいる上に、喫煙者が多い。タバコだけでなく、不摂生な日常をつづけているのだから、万が一、組織内で感染が広がると普通の組織より影響が大きいだろう」(ある指定暴力団幹部)
コロナの感染拡大後、入れ墨をした男性が人工呼吸器を付けている写真が暴力団関係者の間で流れたが、入れ墨も感染拡大に悪影響を及ぼしているとの説もある。
「入れ墨を入れる際に針を使い回したことなどによって、ウイルス肝炎にかかっているケースが多く、肝臓に負担がかかっているとされる。そうなれば当然ながら重症化のリスクは高くなる。このリスクは注射針を使う薬物使用の場合も、同様にあると言われている」(同前)
6代目山口組や神戸山口組は分裂抗争の結果、今年1月に「特定抗争指定暴力団」に指定され、兵庫や大阪など6府県の10市の「警戒区域」内で組員が5人以上で集合することが禁じられている。このため今年に入って、本拠地の兵庫などで意思疎通を図って組織をまとめる場を持てない状況が続いていたが、3月以降はコロナの影響で、警戒区域にかかわらず大半の会合が中止されることとなった。コロナ禍が組織弱体化に追い打ちを掛けているのだ。
「組内では先日、組員本人のほか家族や子どもが感染した場合でも、各地域ブロックの幹部に報告するように通達があった。感染拡大を食い止めるために、組織内の感染状況を事前に知っておこうということだろう」(前出・6代目山口組系幹部)
「志村けんが暴力団の意識を変えた」
いまや新型コロナウイルスに対して、暴力団員の意識も変化してきている。
「コロナ騒動が大きくなる前は、夜の街が寂しいからあえてカネを落としてあげるために積極的に飲みに出かけていた。しかし、今の状況になってしまっては、命に係わることになるため外出は控えている」
そう語るのは、東京都内を拠点に活動している住吉会系幹部だ。
「コロナに対しての意識が大きく変わったきっかけは、(タレントの)志村けんが亡くなったことだ。これは大きかった。この業界だけでなく、日本国民全体が志村けんの死亡をきっかけに重大さが分かったのではないか。今はステイ・ホームだ」
一方、6代目山口組系幹部は「コロナが危険だから、飲み歩くなという指示などは全くない。そもそも、『飲み歩くな』と言われたところで、ヤクザは一般的に『はい、分かりました』と聞き分けのよい連中ではない」と解説するが、前出の住吉会系幹部同様、感染拡大の影響が日々大きくなり、夜の街に出かけることはなくなったという。
コロナ禍は、暴力団のシノギの現場にも大きな影響を与えている。
いま暴力団業界で問題になっているのは、スナックにしてもクラブにしても店が開いていないため、大きなシノギとなっている繁華街の飲食店からの「みかじめ料」が全く入らなくなっていることだという。
緊急事態宣言以降は、居酒屋、スナックなどは営業自粛が要請されアルコールの提供は午後7時まで、8時で閉店が求められている。
前出の指定暴力団幹部は、ある地域で行われている“闇営業”の新しい形について打ち明ける。
「東京都内でも、クラブやスナックなど深夜になるまでこっそりと営業している店はある。だいたい、店の女の子が常連の旦那さんたちに『ご飯を食べに行こうよ』と連絡を取って誘い出し店に引き込む。当然、店は看板の灯りなどは消し、入り口には閉店の札を下げる。客の方も『若い女の子がいる店に飲みに行きたいな』とストレスが溜まっているから渡りに船という訳だ」
さらに、この“闇営業”には次のような裏があった。
「誘い込んだ女の子には、飲み代の半分がキャッシュバックされる『システム』になっている。これはすでにシステム化されている。例えば、店で客が5万円を使う。女の子の取り分は2万5000円。店としては売上ゼロのところ、少しでも入るのであればありがたいのだろう。しかも、こっそりとお忍びのように客が来てくれるんだから。女の子にしても収入が途絶えてしまうから、何とか稼ごうということで双方よろしいようになっている。賢く動くヤツはうまくやる」
法律に罰則が規定されている訳ではないが、自粛疲れから人目を忍ぶと楽しさは倍増するということか。店の売り上げが順調に伸びれば、自然と暴力団のシノギになる可能性もある。
この幹部は「アメリカの禁酒法時代までとは言わないが、アングラで儲ける方法は次々と出てくるものだ」と指摘する。コロナ禍が長期化するなかで、夜の街でも新たなビジネスが生まれ、さらにシステム化も進んでいる。
「今のシノギはマスク」
品薄が続くマスクにも、暴力団員の動きが影を落としている。
いまや医療機関でさえマスクが不足して社会問題化しているが、前出の山口組系幹部は、「だからこそ、今は良いシノギとなっている」と明かす。
「先日もマスク50枚入りを40ケース、計2000枚を売ったところだ。仕入れは1枚につき税込みで50円。これを1枚100~200円で売った。マスクはどこの店に行っても長期間、品切れ状態が続いているが、あるところには在庫がしっかりある。自分はマスクを100万枚以上、確保しているところで買い付けている。さすがに、全て買い取るほど持ち合わせがないから全てという訳にはいかないが……。とりあえず、可能な範囲で手に入れる」
さらに、マスク転売禁止の規制は効果がないという。
「マスクを欲しいという人は、1枚2000円でも3000円でも出す。ネットで転売は禁じられているが、手渡しで売れば、どうにも規制は出来ない。どんな状況になろうとも、商売のルートを確保しておくことがカギ。コロナの感染拡大が始まった当初は、もっと大量にマスクを仕入れていた連中がいた。こいつらはすでにかなり儲けたはず。自分もマスクは儲かるのではないかと思っていたが、ここまで騒動が大きくなるとは考えていなかった」
花見は全滅「花火大会もダメだろう」
全国に広がった「緊急事態宣言」だが、その効力は行楽シーズンのゴールデンウィーク最終日、5月6日までとされている。観光地でのシノギも危機的な状況だ。
東京都内で長年にわたり祭りやイベント会場などで飲食を提供する屋台を出す「テキヤ」稼業をしている暴力団幹部が嘆く。
「花見シーズンはまったくダメだった。全滅と言ってもいい。都内では上野公園周辺や靖国神社など花見の名所では大きな商売ができるはずだった。大田区の洗足池周辺も多くの客が訪れる。しかし、今年は花見ができる場所が封鎖され、『花見自体をするな』ということになったから、お客さんが全くいない。この春だけで数百万円から1000万円の実入りがなくなった」
テキヤ業界では、イベント会場で1軒の屋台を出すことを「1本」という用語で数えるという。東京都内に限らず、テキヤ稼業は地域ごとに「庭場」と呼ばれる縄張りを管理している地元の暴力団がいて、地域の顔役たる組織の代表者に「今年は5本出させてくれ」と申し出ることから商売が始まるという。この際に、「(地元の)ウチは今年、焼きそばとかき氷の店を出すから、これ以外の商売の店にしてくれ」などといった調整がなされ、円満に商売が成立するという。
「屋台の出店料にあたるショバ代(場所代)は地域によるが、1日につき5000円だったり、1万円の場合もあったりでさまざま。屋台は1軒につき若い衆2~3人にやらせる。たこ焼きでもカステラ菓子でも、材料をうまく調合すればお客さんが付いてくれてかなり儲かる。稼ぐには技術が必要だ」(同前)
しかし、この先も見通しは暗いという。
「コロナが終われば、夏の花火大会が大きな稼ぎになるはずだった。花火大会は関東各地、そこら中であるし、東京では特に隅田川花火大会が大きな儲けになる。一日だけだが、昼から場所取りの客が多く集まり、食べたり飲んだり。しかし、ついに中止が発表されてしまった。いまは若い衆もヒマでしょうがない」
コロナ禍がどこまで暴力団業界に影響を及ぼすのか。まだ先は見通せない。
(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))