妊娠中でも休めない医療従事者 「国は妊婦を一律出勤停止にして」

新型コロナウイルスの感染拡大で、妊娠中の医療従事者から「感染リスクが高いのに、現場を離れられない」との声が上がっている。厚生労働省などは妊婦が休みやすい環境を整えることを求めているが、患者急増のなか、医師や看護師らが少ない地域では休むことが難しいケースもある。
関東地方の病院に勤める、妊娠中の30代女性医師は救急医療の現場に立つ日々が続く。2月下旬から新型コロナに感染した疑いのある人も来院するようになった。同僚が配慮し、感染リスクを伴う検体採取は担当してくれるが、心配は尽きない。「保健所からの依頼による来院であれば、あらかじめ防護を強められるが、救急搬送の場合、全員に同じ対応はできない。特に意識状態の悪い患者の気管に管を入れる際、飛沫(ひまつ)を浴びる可能性が高くて危険だ」
東京都内から救急搬送される患者も出てきた。「患者がさらに増えればリスクのある処置をやらなくていい保証はない」と憂える。
関西地方の総合病院で内科医として働く30代女性は、妊娠初期でまだ安定期にも入っていない。日々、数十人の患者に接し、救急搬送された患者の診察にも当たる。胎児への影響が不安で休職を相談したが、認められなかった。退職も考えるが、切迫する医療現場や、主治医として診ている患者への影響を考えるとためらいもある。
通っていた産婦人科医から「別の病院に行って」
追い打ちをかける出来事があった。通っていた産婦人科の医師に「ここでは診られないので別の病院を探して」と告げられたのだ。医療従事者で感染リスクが高く、他の妊婦に迷惑がかかるという理由だった。「産婦人科はただでさえ少ない。もし妊婦が感染したら本人だけでなく、他の妊婦も出産できる場所を失う」
大阪府に住む妊娠8カ月の看護師(29)は、重度の障害児が通うデイサービスに勤務する。「触れ合わずには介助できないし、たんを吸引する際にせきが出ると、その飛沫を浴びるので常に不安」。防護服などはなく、施設のマスクも残りわずかだ。
「施設の看護師は私一人のみ。今辞めたら施設が回らなくなる」。施設で重度の障害児を預かるには看護師の配置は必須という。仕事上の責任感と、母としておなかの子を守りたいという気持ちが葛藤する。「国が『妊婦は一律出勤停止』などの方針を示したら施設も保護者も分かってくれる。少子化を叫ぶなら妊婦の存在を忘れないでほしい」
海外では妊娠中の医療従事者への対応方針などが示されている。英国では王立産婦人科学会が「妊婦は直接(感染症の)患者に接することなく、電話対応などの業務が検討されるべきだ」との見解を公表。豪州・ニュージーランドの王立産婦人科学会も「在宅勤務または休職を検討する必要がある」としている。
日本では、厚労省や日本産婦人科医会などが、妊婦への注意喚起や雇用者への要請を出しているが、医療従事者に特化した方針はない。早川智・日本大教授(産婦人科感染症学)は「代わりがいないなど対応が難しいケースはあるが、ここ1~2カ月は休ませてほしい。不可能なら、優先的に個人防護具を配布するなどの対処が欠かせない」と指摘する。【渡辺諒、成田有佳、国本愛】