【ついに成立】一律10万円給付 8割以上が「賛成」していても“納得できない”理由とは――アンケート結果

4月30日、新型コロナウイルス感染症による経済対策として、国民1人当たり一律10万円を支給する「特別定額給付金」を盛り込んだ補正予算案が国会で成立した。これに先立ち、総務省は概要や申請方法についても発表しており、千葉県市川市など、早いところではすでに申請受付を開始しているという。
当初は、収入が減少した世帯へ向けた“条件付き”の30万円給付が行われる方針だったが、安倍晋三首相は4月16日に一転して方向転換をした。
世論が実現させた「国民1人当たり一律10万円の給付」
政治アナリストの伊藤惇夫氏は、「今回の異例の方向転換を実現させたのは世論であり、『世論が動くことによって、政府を動かせる』という重要な一例として考えるべき」と語る。
「今、政府が進めている様々な政策や対応に関して、『今は批判をする時期ではない』といった声があります。しかし、これは大きな間違いです。
連日、公明党からのプッシュや二階俊博幹事長の発言が影響したという報道が多く見られますが、政府が方向転換をせざるを得なくなった背景にあったのは、やはり『世論の後押し』でしょう」
世論が実現させたとも言える「国民1人当たり一律10万円の給付」。実現に際して、その必要性を訴え続けた国民は今、どう思っているのだろうか?
『文春オンライン』では、緊急アンケートとして「新型コロナ緊急対策『1人10万円給付』に賛成? 反対?」を実施。5日間で総数905票、20代~80代から回答が得られた。その結果を見ていきたい。
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新型コロナウイルスの経済対策として、「1人10万円給付」に賛成が731票(80.8%)、反対が174票(19.2%)という圧倒的な結果となった。
では「1人10万円給付に賛成派」の具体的な声を見ていきたい。
「自粛と補償はセット」「国民をちゃんと守るという意志の表れ」
最も多かったのは「外出自粛を要請しているのだから、国として補償は当然にするべき」という意見だった。
<補償がなければ自粛は無理。政府として給付金を出すのは当たり前のことで、決断するのが遅すぎたくらいでは?>(女性・57) <自粛と補償はセット。供給側は休業により収入が無くなり、消費する側も自粛により通常の生活ができなくなっている。自粛の対価として補償は当然。むしろ少ないぐらい>(男性・38) <国民全員が大変な時に、国民の税金を使わないで、いつ使ってくれるんですか? 今でしょ!>(男性・64)
「国民全員に一律で給付」という点に評価の声も多くあった。
<「世帯別30万円給付」では、困っているのに援助を受けられない人が多かったと思う。そうした人を取りこぼさない政策だと思う>(33・女性) <所得に関係なく、国民全員が大なり小なりの影響を受けているはず。一部の人達にだけ支援するのは不公平感が大きくなる。全ての国民に10万円を配るのは、国が国民をちゃんと守るという意志の表れを感じた>(男性・59) <複雑な申請手続きが出来ない“申請弱者”が給付金を諦めてしまう可能性を最も少なくできる最適の方法だと思う>(男性・69) <条件付きの「30万円給付金」では対象外でした。しかし、コロナの影響で生活は苦しくなる一方……。今回の一律10万円給付はとても有難いです>(女性・32)
伊藤氏は、「『条件付きの30万円給付金』は制度として酷すぎた」と指摘する。
「困窮した人に焦点を当てるという方針には必ずしも反対はしませんが、『条件付きの30万円給付』はあまりにも複雑なシステムで、もらえるか、もらえないかがはっきりしませんでした。
例えば、アメリカでは『年収が7万5000ドル未満』という具体的な金額を提示しています。わかりやすい給付基準を設けて、収入の低い人に重点的に配分するんであればまだ理解ができました」
賛成だけど「あまりに決断が遅すぎた」
さらに、国民一律10万円給付に「賛成」としながらも、政府の遅すぎる対応などに疑問の声を上げる人もいた。
<遅いくらいです。明日の生活に関わってくる人も出てきている状況で、国にはもっと早く対策を講じて欲しかった>(男性・37) <賛成だが遅すぎる。休校宣言・イベント自粛をしたのが2月末で、次に外出自粛要請と続き、すでに2ヶ月が経っている。4月には、国民に行き渡る補償をしてほしかった>(女性・45) <「まずは手元に迅速に」という意味で一律10万円となったのは評価するが、もっと早くその決断をすべきだった>(男性・61)
「あまりに決断が遅すぎました。すでに国民や野党から散々批判の声が上がっていたにも関わらず、方向転換が遅れたことにより、少なくとも1週間は補正予算案の成立が遅れています。当初から10万円給付にしていれば、もっと早くに給付を開始できたかもしれない。
そもそも、全ての新型コロナウイルス感染症の対策に関して、3月末に成立した通常予算(当初予算)の審議の過程で、『(コロナ対策を盛り込む)修正をすべきだ』という意見があちこちから出ていたんです。ところが、そこで修正をしなかった。これによって、補正予算案の成立も1ヶ月以上遅れることになったわけです」(伊藤氏)
生活困窮者を支援するNPO法人ほっとプラス代表理事・藤田孝典氏も「本当に遅すぎると思います」と、現場で聞いた生の声を教えてくれた。
「我々のもとには、3月、4月の時点で、『家賃や電気・ガス・水道代といった公共料金などの支払いが厳しい』という相談が殺到していました。新型コロナウイルスはもう災害と言っていいほど、甚大な影響を及ぼしています。生活に影響が出始めてから2ヶ月以上も経って、『やっとか』というのが率直な感想です」
「1回10万円の給付金ではどうしようもない」
そして、外出自粛が長期化するなか、「10万円1回きりでは足りない!」という意見も続く。
<給付には賛成だし、助かるのは間違いないが、店は休業、給料激減。ランニングコストはこれからも変わらない。1回10万円の給付金ではどうしようもない>(男性・62) <1人10万円の一律給付には大賛成。更に言えば、条件付きの30万円給付もそのまま行うべきだったと思う>(男性・51) <緊急の対策として良い判断だと思うが、これだけでは不十分。第2、第3の給付が必要だと思う>(女性・43)
伊藤氏も「次の政策のための準備を早急に進めるべき」だと主張する。
「もし同時並行的に、日本が次の対策を講じるのであれば、低所得の人に重点的な補償ができる仕組みを早急に議論する必要があります。第2、第3の支援策も『一律10万円』で正しいのかという点も、早急に検討すべき問題です」
また、藤田氏は「現物(サービス)給付が必要」だという。
「現金給付も必要ですが、それだけでは足りない。今、日本では1人世帯・2人世帯が圧倒的に多く、大家族は少なくなっている傾向があります。給付金を世帯ごとに受け取るとなると、1世帯あたり10万~30万円程度。しかし、今回の新型コロナウイルスによる被害の大きさを考えると、十分とは言い難い。
現金給付は使い勝手が良いので望む声は多いと思いますが、今後は『現物(サービス)給付』として、『家賃』や『公共料金(電気・ガス・水道)』への補助が必要だと思います」
では、次に圧倒的に少なかった「反対派」の意見を見ていく。
圧倒的少数「反対派」の理由とは?
政策自体には賛成していても、「金額が少ない」「決定が遅すぎた」という意見から反対を選んでいる人が多かった。
政策自体に反対を示す人には、「全国民一律である必要があるのか」という意見が。
<景気対策なので、消費に直接寄与しない年齢層(特に乳幼児)への給付は不要だと思う。例えば、3月31日を基準日として中学校卒業年齢以上の国民に限定して給付するのが望ましい>(男性・56) <現在の状況下でも雇用が継続されている方、経営不振に陥っていない事業主の方々に、国民の税金を使って10万円を給付する理由が理解できない。実際に減収となり生活苦や倒産の危機に陥っている人々を手厚く救済するべき>(女性・43) <年金や生活保護など、公費で生活をしている人には給付する必要はない>(男性・53)
しかし、藤田氏によると「誰もがもらえる給付金制度であることが重要」だと言う。
「福祉の制度には『子ども手当て』というものがありますが、所得に関係なく子どもがいれば全ての世帯に配られるシステムになっています。『誰でももらえるなら』という認識が持てることは支援として重要な観点です。生活保護みたいに特定の限られた人たちに配るという制度は『私は大丈夫』と、なかなか浸透しないケースが多いです。
もしこれから、さらなる現金給付を追加で行うのであれば、限定された世帯だけではなく、やはり『誰もがもらえる給付金制度である』ことは守られるべきです」
コロナ対策は「各自治体が先行し、国が後追いしている」
一方で、「政策の目的や趣旨が明確になっていない」とする意見も続く。
<何に使う為の10万円なのか、何故10万円なのか。先々までの事を考える事なく、安易に下したとりあえずの判断という印象が強い。使うべきものに、使うべき人の為の、政策を決定してほしかった>(女性・35) <政府による、コロナ対策アピールとしか思えない。それだけのお金をかけるならば、医療機関および医療体制の充実や、脆弱なPCR検査体制の構築にお金を使うべき。国民全員に給付するとして、財源はどうする気なのか>(男性・37) <せっかくの給付ではあるけれど、政府として何がしたいのか全く見えない。個人への給付(生活支援)がメインなのか、企業への経営支援によって雇用と企業を守り、収束後の経済を回す基盤を維持しようとするものがメインなのか。政策の方向性が明確でない>(女性・53)
「安倍晋三首相のリーダーシップについては、評価できません。様々な面で対応が遅すぎます。また、今回の新型コロナウイルス感染症の対策や対応についての流れを見ていると、東京都や大阪府をはじめとした各自治体が先行し、国が後追いしている印象を強く受けます」(伊藤氏)
[賛成:80.8%]と[反対:19.2%]。圧倒的な差となった今回の結果だが、具体的な意見を見ていくと、どちらの意見にも「政府の決断が遅すぎた」「これだけでは支援として不十分である」といった声があった。そして、「1人10万円給付」に“反対”としながらも、「支給されたのであれば有効活用する」と答えた人が多数だった。
そこで、さらに「『国民1人当たり一律10万円の給付金』の使い道を教えてください」という質問に答えてもらった。こちらの回答も見ていこう。
「10万円の給付金」の使い道、あなたはどう使う?
最も多かったのは「生活費」で、(235票・26%)だった。なかには、食費や家賃、コロナ対策のための「マスクや消毒液を購入する」と答えた人もいた。
また、すぐには使わないということで「貯金」と答える人も多かった(102票・11.3%)。コロナが収束した後に「お世話になっているお店に還元したい」「行けなかった旅行を楽しみたい!」と、積極的な消費行動を予定している人もいるようだ。
そして、“返上論”も唱えられた今回の給付金だったが、「辞退する」と答えた人は、数票程度と少なかった。しかし、「寄付する」と答えた人は(52票・6%)と一定数見受けられた。
意外にも多かった回答が「自動車税の支払い」(26票・3%)。ちょうど給付が始まるとされる5月に、納税義務がある人がその支払いに充てるようだ。「固定資産税」などを上げる人もいた。
他にも、<子供はゲームソフト、私はパソコン、妻はエアコンを買います>(男性・51)と、家族全員が受け取れる給付金でそれぞれ好きなものを買う家庭や、<延期した結婚記念日の食事会に使いたい>(女性・45)、<百貨店コスメを購入したい>(女性・31)、<とりあえず大好きな芸能人の出演しているDVDやブルーレイを買います>(男性・39)、<子供のオンラインの授業のためにPCを買う>(男性・54)などの回答があった。
また、正直な回答として、<ギャンブル>(男性・42)と答える読者もいた。
「今回の給付金政策が実施されることに対して、多くの人が好意的なのは現場でも明らかです。相談所にもDV被害を受けている方からホームレスの方など、様々な人から『私も受けられるんですよね?』という確認のお問い合わせが来ています。それほど、多くの人が心待ちにしていたことだったと言えます。
ただ、条件が簡素化されたからといっても、まだまだ『どうやったら受け取れるのか』という疑問の声は多く寄せられます。政府にはもっと広報活動を強化していただき、受けたい人がスムーズに制度を利用できるようなサポートをしてほしいですね」(藤田氏)
新型コロナウイルスによる影響はなかなか落ち着きを見せない。長期化する外出自粛によって、生活様式やリズムが極端に変化し、厳しい状況に直面している人も多いだろう。今回政府が発表した「国民一律10万円給付」は、十分な経済補償となりうるのか。給付金の受け取りが始まる5月以降も、政府がどのような対策を打ち出してくれるのか注視する必要がありそうだ。
(「文春オンライン」編集部)