御巣鷹の慰霊「心の中で」 自粛呼びかけ、遺族のいない開山 日航機墜落事故

520人が犠牲になった1985年の日航ジャンボ機墜落事故の現場となった群馬県上野村の「御巣鷹の尾根」が29日、春の山開きを迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、山を管理する公益財団法人「慰霊の園」と村、日本航空は遺族に向けて大型連休中の慰霊登山自粛を呼びかけているため、夕刻まで訪れる遺族はなく、異例の開山となった。【菊池陽南子】
登山道は昨年10月の台風19号の影響で一部崩落しており、開山に向けて仮設階段の設置工事が行われた。多くの遺族が訪れる事故が起きた8月をめどに、犠牲者の銘標が並ぶ「スゲノ沢」などの復旧も進めるという。
「8・12連絡会」事務局長の美谷島邦子さん(73)は「開山に向けて整備をしてくださった村の優しさに感謝でいっぱい。安全を考え今回は自粛を決めた。遺族同士では『落ち着いたら会いに行こうね』と話している」。
妻の由美さん(当時24歳)を事故で失った東京都足立区の工藤康浩さん(60)と事故後、再婚した妻理佳子さん(58)は「命の大切さを知る我々が、いま登るわけにはいかない」と自粛を決めた。
川上和子さん(当時39歳)の兄、鹿児島県姶良市の宇都政幸さん(85)は「今夏の慰霊登山は諦めている。年齢を考えると『最後』の登山という思いもあった。心の中で供養をしたい」と胸中を語った。
「御巣鷹の尾根」管理人の黒沢完一さん(77)は犠牲者を悼む「昇魂之碑」に線香を供え、「やむを得ないことだが管理人としてはさみしい。一日も早くご遺族が登れるようになってほしい」と手を合わせた。