◆23回目の“記者排除”。会見終了後に声かけ質問をするも無視
「医療崩壊を招いた張本人が医療関係者を励ます“指揮官役”に大化けをした。この変わり身の早さ、『コロナのたぬき』と呼ぶのがぴったりではないか」
こんな疑問が湧いたのは、小池百合子都知事会見で指されない筆者の“記者排除”記録が23回へと更新した4月23日と24日のこと(筆者は4か月にわたって、会見で指名されない状態が続いている)。そのため、両日とも会見終了直後に声かけ質問をして、緊急救命受け入れ中止をした「都立墨東病院」(墨田区)について次のように問い質した。
<23日の都知事会見後の声かけ>
――知事の隠蔽改竄が、墨東病院の医療崩壊の原因ではないですか? ずっとマスク不足だったのに「マスク確保」と大ウソの発信をしました。(都のウェブサイトで「マスク確保」と発信をした)都病院経営本部の責任はないのですか?
小池知事:(無言のまま立ち去る)
<24日の都知事会見後の声かけ>
――墨東病院の件ですが、ずっとマスク不足だったのに「マスク確保」と大ウソの発信をしていたのではないですか。都の隠蔽体質が医療崩壊を招いたのではないですか?
小池知事:(無言で立ち去ろうとしたとたん、都の職員がマイクで「会見は終了しました」と繰り返し叫び、筆者の質問を聞こえにくくした)
◆墨東病院の「マスク不足」などのSOSを東京都が隠蔽した!?
都立墨東病院は、多くの新型コロナウイルス感染者を受入れてきた感染症指定医療機関で、三次救急医療(重症~危篤)も担ってきた地域の中核病院だ。医療ジャーナリストの伊藤隼也氏は4月18日のツイッターで「1ヶ月以上前からマスク枯渇訴えてきた墨東病院が院内感染で新規受け入れ中止」「都は見殺しにした」と都の対応を問題視。福山哲郎幹事長(立憲民主党)が3月2日の参院予算委員会で加藤勝信厚労大臣らに配布したマスク不足を訴える文書(伊藤氏が福山氏に提供)も添付した。そして翌19日のツイッターで、こう批判した。
「こんな体制で1ヶ月も続ければ(墨東病院で)院内感染が出ないわけがない。国会で福山議員が加藤厚労大臣に、(先の配布文書にある)この写真を見せてマスク不足解消を迫ったが、全マスコミは墨東病院の窮状と東京都のマスク不足無しという大嘘を看過した」
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の実態を告発した岩田健太郎教授(神戸大学病院感染症内科)と電話会議をした原口一博・国対委員長(国民民主党)は4月20日の会見でこう述べた。
「(都立墨東病院は)日本に冠たる病院です。その病院が外来や手術を諦めなければならないことがどれほどのことかを政府の人たちや東京都の人たちには考えていただきたい。『都立墨東病院にどれだけの支援をしたのか。その医療従事者の方々にどれだけの支援をしたのか。口では言っているが、本当に見離しているのではないか』という声を、この土日で沢山いただきました」
墨東病院が院内感染で緊急救命受け入れを中止したのは4月21日。国会審議の4日後の3月6日に、都病院経営本部はウェブサイトで「診察に必要な医療用マスクを確保しています」とマスク不足を否定していた。医療現場の悲鳴(SOS)を受け止めて有効策を打つ代わりに、危機的状況を隠蔽改竄した。それを全マスコミは見逃してしまったというのだ。
実際、小池都知事会見でよく指名されるマスコミ記者はこの「マスク不足否定」について一度も追及することはなかった。指名なし(記者排除)記録更新中の筆者が2回連続で、墨東病院のマスク不足について声かけ質問をしたのはこのためだ。
しかし小池知事は、都病院経営本部の隠蔽改竄疑惑について説明も訂正もせず、「大ウソ」と叫んだ私の声かけ質問を都職員のマイク音声でかき消そうとした。自らの怠慢が招いたこの“不都合な真実”を、徹底的に隠蔽改竄する姿勢としか見えないのだ。
◆突然、医療従事者を励ます“指揮官役”に
しかも小池知事は24日の会見で、こんな発言もしていた。
「世界各地では医療従事者に対して、一定の時間に拍手をみんなで贈るというようなキャンペーンなども行われている。東京都でも、先日も(都庁などの)ライトアップによりブルーを示すことによって、医療従事者の皆さんへのエールを送っているところです」
筆者は唖然とした。墨東病院の医療崩壊を招いた責任者が自らの怠慢を恥じることなく、医療従事者を励ます“指揮官役”に大変身しようとしている。「コロナのたぬき」と呼ぶのがピッタリだと思ったのはこのためだ。
これまで小池知事は「緑のたぬき」と一部で呼ばれ、揶揄されてきた。元環境大臣である小池知事のシンボルカラーがグリーンであることと、希望の党設立時の「安倍政権打倒」の旗印が“詐欺的”だったとの印象から生まれたネーミングだったが、今回のコロナ対応でも小池知事の外面と中身のギャップを再び目の当たりにすることになったのだ。
◆五輪延期決定前後も大変身――連続放火犯が消防署長に“化けた”!?
3月の3連休明けに五輪延期決定をした際にも、小池知事はその「たぬき」ぶりを発揮した。感染拡大を招いた“火つけ役”が突然、感染拡大防止の陣頭指揮を取る“火消し役”へと“化けた”かのような変わり身の早さだった。
安倍首相が五輪延期容認を表明した3月23日、「予定通りに五輪を開催する」との方針で足並みを揃えてきた小池知事も首相に同調し、急に悲観的な見方を会見で打ち出し始めた。
3月20~22日の3連休前は「7月開催が可能」と強調、早期収束の見通しを述べていた。しかし連休明けの23日になると、緊急会見で「ロックダウン(首都封鎖)の可能性がある。何としても避けなければならない」と強い言葉で危機的状況を口にし始めたのだ。
『日刊ゲンダイ』や『週刊文春』『週刊新潮』など多くのメデイアが問題にするのは、3連休中の外出自粛を小池知事が要請しなかったということだ。大阪府と兵庫県が府県間移動の自粛と呼び掛けたのとは対照的だ。このような楽観的対応を小池知事がしたのは、五輪開催を優先したためだったと見られている。
そしてちょうど花見シーズンでもあった3連休では、都内での外出が増加。これがその後の都内での感染拡大の原因となった可能性が高いことは、大阪や兵庫での同時期の感染者数が東京より少ないことからも明らかだ。
また和歌山県知事が安倍政権の方針に従わずにPCR検査を徹底的に進めて感染拡大防止に成功したことを見ても、小池知事の職務怠慢は明らかだ。五輪開催で安倍政権と足並みをそろえていた姿勢もまた、感染拡大の一因に違いない。
しかし小池知事は五輪開催延期が決まったとたん、外出自粛要請の遅れやPCR検査数抑制などで感染拡大を招いた自らの職務怠慢を棚に上げた。その一方、頻繁に会見を開いて「ロックダウン」「オーバーシュート」といった強い言葉を発し、感染拡大防止の“火消し役”としてメデイア露出を繰り返した。まさに「マッチポンプ」、連続放火犯がいきなり消防署長になったかのような違和感を覚えた。
◆小池知事と安倍首相のコロナに対する態度は瓜二つ
こうして小池知事は会見回数を急増させ、「やっている感」の演出に精を出すと同時に、“不都合な真実”の隠蔽改竄にも励んでいた。都のホームページに掲載される知事会見動画では、会見が終了したとたんに音声が消えるという編集操作を施していたのだ。
筆者の声掛け質問を“闇”に葬る作業ともいえるが、都知事選で掲げた「透明化」と正反対の行為であるのは言うまでもない。
4月15日の臨時会見では、都報道課職員が会見前に「記者会見のお知らせ」と銘打った文書を配布。そこには「会見室内での質問は、知事又は司会者からの指名を受けた上で行ってください。会見室内で、けん騒な状態を作り出すことは慎んでいだだき、都職員の指示に従ってください」と記載されていた。
会見終了後、報道課職員が声かけ質問をした筆者を呼び止めて、配布文書の内容を確認することを要請。「会見室内で、けん騒な状態を作り出すことは慎んでいただき、都職員の指示に従ってください」との文言に違反していると指摘した。
これに対して筆者は「20回以上指名なしへの対抗措置である」と反論、この文書違反で出入禁止にすることは質問権はく奪に等しいと抗議した。逆に、恣意的な指名を止めるように小池知事に伝えるようにと改善要請を行った。その後も声掛け質問をしているが、出入禁止にはなっていない。
総理会見で質問内容を事前に調整する“やらせ”がバレた安倍首相と、お気に入りの記者だけを指名して都合の悪い記者の排除を続ける小池知事は、まさに瓜二つだ。“不都合な真実”を隠蔽改竄しようとする部分も似た者同士。彼らのコロナ関連の発言については、「実効性があるのか」「パフォーマンスではないか」「言行不一致ではないか」などと、今後も厳しく検証していく必要がある。
<文・写真/横田一>
【横田一】
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数