運転手任せのタクシー感染防止策、休職申し出相次ぐ「働いても全然稼げない」

新型コロナウイルスの感染拡大で、兵庫県内のタクシー事業者が苦境に立たされている。外出自粛や休業要請の影響で、売り上げが前年同期比で7割も減少した事業者も出ている。また、運転手が乗客から感染するリスクもあり、先の見えない営業を続けている。(藤井竜太郎)
「いつまでこの状態が続くのか。ドライバーには死活問題だ」
神戸市に本社のあるタクシー会社の運転手(72)はため息をついた。3月以降の売り上げは1日平均5万円から半分程度に落ち込み、4月3日から会社を休んでいる。「働いても全然稼げない。運転手になって10年以上たつが、こんなに寂しい三宮・元町は初めて」と話す。
兵庫県内約200社が加盟する兵庫県タクシー協会によると、3月中の加盟社の売り上げは前年同期比で5~7割ほど落ち込んだ。担当者は「3月以降、ぱたっと外出がなくなった。緊急事態宣言でさらに利用者が減った」と声を落とす。
客を乗せることで自身が感染するリスクを抱えているタクシー運転手。協会は加盟社に対し、運転手のマスク着用や手洗い、換気の励行などを呼びかけているが、感染防止策の多くは運転手任せになっているのが実情だ。
神戸市の別のタクシー会社では、約70人の運転手のうち65歳以上の高齢ドライバーが約9割を占める。感染の不安から3月に入って休職の申し出が相次いだという。感染拡大が叫ばれ始めた2月以降、希望者に配布していたマスクも底をついた。同社幹部は「安全確保が従業員任せにならざるを得ず、悩ましい。リスクを覚悟して、業務についてもらっている」。
兵庫県タクシー協会姫路支部では、管内のタクシー全約660台に、除菌能力があるとされる微酸性次亜塩素酸水が入った噴霧器を配備。新型コロナウイルスにも効果があるかは不明だが、姫路支部幹部は「お客様も従業員も安心して乗車できる一助になれば」と期待を込める。
運転手の感染が確認され、営業所を一時閉鎖した「神戸エムケイ」(神戸市中央区)は再発防止に力を入れる。芦屋営業所では、全車両(66台)を消毒し営業を再開した。さらに、出勤時の検温や、走行中に5センチほど窓を開けて車内の換気を義務づける。担当者は「感染に最大限の注意を払いながら市民の足として営業を続けていきたい」。
売り上げ減少の打開策として、新たなサービスを導入する事業者も。「かもめタクシー」(神戸市兵庫区)は、外出を控える高齢者ら向けに、スーパーや薬局などでの買い物の代行サービスを始めた。利用者の自宅から5キロ圏内の店舗が対象で、買い物代金とあわせて、かかった時間に応じて料金を支払うシステムだ。同社は「(外出自粛などで)困っている利用者のお役に立ちたい」としている。