「3密は避けられない」銭湯が抱える葛藤。公衆衛生の使命感で営業も…

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、4月7日に発令された緊急事態宣言。当初は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡を対象に、5月6日までとされていたが、4月16日に対象が全国に拡大。5月4日には、期間が全国一律で5月末まで延長されたが、5月14日には東京や大阪など8つの都道府県を除く39県で解除となった。

いまだに多くの施設が営業の自粛を余儀なくされるなか、社会生活の維持に必要なスーパーやコンビニ、交通機関などは営業が認められている。地域の公衆衛生の観点から、緊急事態宣言後も営業が認められている銭湯もそのひとつだが、東京都ではスーパー銭湯については休業要請の対象となった。

東京都総務局によると、銭湯は公衆浴場法で「一般公衆浴場」に規定されている。一般公衆浴場は、「日常生活で保健衛生上必要なもの」とされ、入浴料の上限も決まっている一方で、飲食やマッサージなども提供するスーパー銭湯は「その他公衆浴場」に区分。娯楽施設としての側面が強く、生活に必須とまでは言えないことからこのように判断したという。

◆「いつ集団感染が起きてもおかしくないなと半ば覚悟…」

だが、休業要請の対象からは外れたものの、多くの銭湯では自主的に休業や営業時間縮小、サウナなど一部サービスの停止などの措置をとっており、苦境に立たされている。東京都北区で50年以上続く老舗銭湯「殿上湯」のオーナーである原延幸氏も「スーパー銭湯やサウナがダメなら、銭湯も安全なはずがない」と肩を落とす。

「ありがたいことに、こんなときでも開けていれば、毎日のように入りに来てくれる常連さんがいます。そもそも店を閉めたところで、銭湯に関しては具体的な保証がありません。なので、何とか赤字にならない範囲で、うちも営業時間を短縮しながら店を開けています。でも、銭湯は本来、3密(密閉、密集、密接)を避けにくい場所。入り口にアルコールを置いたり、張り紙で注意喚起を行ったりしていますが、常連客同士でおしゃべりが始まることもありますからね。もちろん注意はしていますよ。換気や消毒を徹底していますが、いつ集団感染が起きてもおかしくないなと半ば覚悟している面もあります」

見えないウイルスの存在に怯えながら、常連客と生活のために銭湯の営業を続けているが、大手を振って営業ができないジレンマもある。

「銭湯を開けるからには、できるだけ多くの人に利用してもらいたい。でも、東京都からはお客さんが集まったり、長居をしたりしないようにしてくださいと要請がきています。公衆衛生の観点から営業を続けてほしいというくせに、お客さんを集めるなというのは、商売の観点からするとおかしいですよね。集団感染を防ぐことが大事なのはわかりますよ。ただ、僕たちにだって生活がある。普段と比べて客足は4割ほど減っていますし、売り上げは全体で半分以下に落ち込んでいるので、このままだと僕たちの生活も厳しくなります」

◆「次のアクションを起こすために今は時間を使う」

もっとも、売り上げの減少が避けられないなかでただ手をこまねいていたわけではない。原氏は宿泊施設として利用していた銭湯横の施設を、テレワークなどに使える貸しスペースとして運用を開始した。

「例年ですと、3~5月は予約がほぼ埋まっているのですが、新型コロナウイルスの影響で今年は予約ゼロになりました。そこで、本来は宿泊客を泊める施設ですが、少しでも利益を出すために個室を貸し出すことにしたんです。料金はお一人様3000円。8~20時まで利用できて銭湯の入浴も自由なので、少しずつ利用してくれる方が増えています」

◆コロナ終息後に向けた取り組みも

さらに新型コロナウイルス終息後に向けた取り組みも始めているという。原氏はこれまでも風呂場でピアノの演奏会を行う「銭湯のピアニスト」や、風呂場にやぐらを組んで和太鼓の演奏会を行う鼓童公演「風呂ドン!」など、ユニークなイベントを開催。若者や家族を中心に新規のリピーターを増やしてきた実績がある。

「文句を言っても仕方ないですからね。次のアクションをすぐに起こせるように、営業を短縮してできた時間を有効活用するようにしています。コロナのせいで足が遠のいてしまった人たちにも来てもらいたいですし、また面白いことをやっているなと思ってほしいですから。『コロナが落ち着いたら週3以上で通います!』と言ってくれる常連さんや、SNSで『朝湯の再開を楽しみにしています!』とメッセージをくれる方もいるので、とても励みになりますね」

コロナ禍にあっても地域の公衆衛生を支えるため営業を続ける老舗銭湯。癒しを求めて集まる人たちで賑わう「日常」が戻るまでオーナーの試行錯誤の日々は続く。