航空自衛隊の「宇宙作戦隊」の隊旗授与式が18日、防衛省で行われ、自衛隊初の宇宙専門部隊が発足した。米宇宙軍と連携し、人工衛星への脅威となり得るスペースデブリ(宇宙ごみ)をはじめとする宇宙空間の監視を進める。空自府中基地(東京都)を拠点として2023年度の任務開始を目指すが、自衛隊が担う領域は際限なく広がっている。【松浦吉剛、田辺佑介】
高まる緊張、米との協力強化
隊旗授与式は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、隊員約20人のうち阿式(あじき)俊英隊長(2等空佐)ら代表2人が出席した。河野太郎防衛相は「安全保障環境は変化し、陸海空という従来領域に加えて、宇宙をはじめとした新たな領域でも我が国が優位性を確保することが重要だ」と強調した。
作戦隊が担うのは、宇宙空間を飛ぶ各種人工衛星の監視業務だ。大半の人工衛星が活動する地球の上空3万6000キロまでの宇宙空間で、宇宙に漂い衛星に衝突する懸念があるスペースデブリや他国の衛星の状況などを監視する。防衛省は23年度までに山口県山陽小野田市に、デブリや不審な動きをする衛星を捉えるレーダー施設を整備。26年度までには光学望遠鏡を搭載した宇宙状況監視(SSA)衛星を打ち上げる。作戦隊の23年度の任務開始に向け、米軍や宇宙航空研究開発機構(JAXA)などとの調整やシステム整備を行う。
防衛省は18年12月に決定した防衛計画の大綱で、安全保障上の領域として宇宙を初めて位置づけた。安全保障分野のみならず、日常生活でも衛星機能の重要性が高まったためだ。作戦隊創設は宇宙での「優位性」を確保するためだが、創設時期は当初22年度の予定で、2年前倒しした。
政府が作戦隊発足を急いだのは、米国との協力強化が必要と見たためだ。19年3月時点の軍事用の衛星は、米国125基▽中国103基▽ロシア96基▽インド12基。日本の11基を上回っており、日本は地上の画像データ収集や弾道ミサイルの発射情報などで米国の衛星に依存している。一方で米国は19年12月に宇宙軍を創設した。自衛隊幹部は「日本も専用部隊を創設し宇宙領域に取り組む姿勢を示さなければ、米軍とも情報共有できない」と漏らす。
米国との連携強化を進める日本だが、作戦隊の具体的な活動計画は定まっていない。空自幹部は「名前は作戦隊だが、作戦の中身はまだ何もない」と漏らす。その一方で宇宙の緊張関係は高まっている。
偵察衛星や弾道ミサイルの発射を捉える早期警戒衛星、通信衛星などを整備する米国に対し、近年は中国が台頭。07年には地上発射ミサイルによる自国衛星の破壊実験を行った。中国は相手の衛星を捕獲・破壊する「キラー衛星」や、衛星の通信を妨害する装置の開発を進めているとみられる。米軍は4月15日にロシアが衛星攻撃ミサイルの発射実験をしたとして「米国や同盟国の衛星に対する脅威が現実かつ深刻であることを示した」とけん制した。
中露の「脅威」に神経をとがらせる米国は今後、作戦隊のどのような「貢献」を期待するのか――。自衛隊の役割は新たな領域とともに広がりつつある。
宇宙の防衛協力、検討これから
「脅威に合わせて変えるべきものは変えていかないといけない」。河野防衛相は15日の記者会見で、宇宙領域での能力強化の必要性を強調した。作戦隊の創設を踏まえ、防衛省は宇宙での機能強化を進める。
自衛隊は通信能力を高めるため、2017年1月と18年4月、部隊間の通信を担うXバンド通信衛星を相次いで打ち上げた。22年度には3基目を打ち上げ、通信の高速化・大容量化を目指す。ミサイルなどの精度を高めるため、「日本版GPS(全地球測位システム)」と呼ばれる国家プロジェクトに相乗りし、測位衛星「みちびき」から情報を受信する装置を海上自衛隊の補助艦2隻に設置した。衛星を通じて地上の高熱源をきめ細かく捉える自前のセンサーの実証研究も進め、北朝鮮のミサイル発射などに備える。
だが、課題は山積している。
約20人で発足した作戦隊は今後、規模を拡大する方針。河野氏は「小さく産んで大きく育てたい」と語るが、政府内では「態勢が整うのに10年はかかる」との見方が広がる。
加えて宇宙空間の利用は、核兵器の配備禁止などを除き、実効性のあるルールは整備されていない。作戦隊創設を急いだ背景には、各国間の協議を見据え「国際社会のルール作りの動きに置いて行かれないようにする」(自衛隊幹部)狙いもあるが、宇宙空間で日本の衛星が他国の衛星に妨害を受けた場合などの、具体的な対処方法の本格検討はこれからだ。米国の日本防衛義務を定めた日米安全保障条約で「宇宙」は今のところ適用外で、宇宙空間において日米でどのような対処を行うかは今後の協議次第だ。
河野氏は4月16日の参院外交防衛委員会で、米国などの衛星が攻撃された場合は、集団的自衛権の行使も可能となり得るとの考えを示した。日本の存立が脅かされる「存立危機事態」にあたるなど「武力行使の3要件」を満たす場合を想定しての発言だが、同盟国の衛星に対する防衛のあり方も今後の検討課題として残されている。