【検察庁法改正】“元凶”黒川は林と共倒れか 検察内部で「第3の男」が浮上

「検察庁法改正案を巡るゴタゴタも含め、ここまでブラックな印象が定着してしまった以上、黒川氏の総長就任は無理ではないか」(法務省関係者)
検察官の定年引き上げを盛り込んだ検察庁法改正案を巡る国会の攻防が繰り広げられる中、黒川弘務・東京高検検事長が「予定通り」検事総長に就任できるのかという焦点が浮かんでいる。黒川氏が総長に就くか否かは、今回の法改正と直接は関係ないが、法改正のきっかけが黒川氏の定年延長にあったからだ。
一方で、検察組織が元々予定していた林真琴・名古屋高検検事長の総長就任も、今になって内閣が首を縦に振るとは思えない。既に検察内部からは「黒川、林の両氏ではない第三者を総長に」との声が上がっている。それは、誰なのか。
そもそも内閣が描いていた「黒川検事総長」の筋書きとは
改めて経緯を整理しよう。現在の検事総長、稲田伸夫氏は司法修習33期。既に34期はおらず、次に35期の黒川氏と林氏の2人が続く。稲田氏は2018年夏に総長に就任しており、約2年間という慣例の在任期間を考えると、今夏、退任が見込まれている。現行制度では、検事総長を除く検察官の定年は63歳で、黒川氏は林氏より早い今年2月に定年を迎える予定だったが、内閣が「異例の閣議決定」で半年延長した。
表向きの理由は「検察庁の業務遂行の必要性」。具体的には、海外逃亡してしまった日産自動車前会長、カルロス・ゴーン氏の事件に関わる捜査などに、黒川氏の捜査指揮の手腕が不可欠という。閣議決定の結果、黒川氏の定年は今年8月まで延び、対する林氏は今年7月に63歳の誕生日が来る。唯一無二のライバルである林氏が定年退職した後、内閣が黒川検事総長を任命するという筋書きが描ける。
そもそも、この黒川氏の定年延長自体が、前代未聞として悪評を招いた。検事総長の任命権者は内閣だが、これまで検察組織の意向が受け入れられてきた。
仮にこのまま黒川氏が検事総長になっても……
今回、検察組織は林氏の就任をイメージしていたが、内閣が恣意的に黒川氏の総長就任のための線路を敷いた。そして、検察庁法改正案は「黒川氏問題」を後付けで正当化する意味合いを持つとされる。この改正案がこのまま成立したとしても、施行は2020年4月。黒川氏が改正法の恩恵を即座に被るわけではない。それでも、黒川氏は「元凶」として各メディアに取り上げられ、悪印象が定着してしまった。
仮にこのまま黒川氏が次期検事総長になっても、最初からダークなイメージがつきまとい、検察に対する国民の信頼はおぼつかなくなる。
黒川氏はとりわけ菅義偉官房長官と親密な関係があるとされるが、内閣もここに至っては黒川氏を総長に任命することへのハレーションに耐えきれなくなるのではないかと考えられる。かといって、今更、7月に定年を迎える前に林氏を総長に充てるという選択肢も想定しにくい。
そうした中、検察内部からは「いっそのこと、次の36期から次期総長を」との声が上がっている。36期といえば、まず名前が挙がるのが、最高検次長検事の堺徹氏だ。
東京地検特捜部長経験者で、特捜部長時代は大王製紙の特別背任事件やオリンパスの損失隠し事件を手がけている。
「仏の堺」vs.「甲斐の壁」
特捜部の副部長時代には、防衛装備品の調達を巡る贈収賄事件で防衛事務次官を逮捕している。特捜部長というと、「鬼の」という形容詞を付けたくなるが、堺氏はむしろ「仏」をイメージさせる温厚なタイプだ。
あるいは、高松高検検事長の甲斐行夫氏。法務省在籍期間が長く、同省刑事局刑事課長、同局総務課長とエリートコースを歩み、刑事裁判への被害者参加制度や少年法改正などを担った刑事法制のプロだ。
いわゆる「捜査現場派」ではなく「赤レンガ派」(法務省在籍期間が長い検事のこと)だが、最高検刑事部長、東京地検検事正という要職を経て、現職に至っている。明晰な頭脳をうかがわせる鋭い眼光で、法制のプロだけに特捜部事件でも決裁ラインの「甲斐の壁」をクリアすれば、無罪になることはないと評された。
他に、公安調査庁長官の中川清明氏。法務省秘書課長経験者で、最高検公安部長などを務めている。「鬼平犯科帳」を愛する人情の厚さで、慕う同僚や部下も多い。最近では、オウム真理教による地下鉄サリン事件から25年という契機に各メディアの取材に応じるなどしており、露出度も高い。
いずれも5月現在、60~61歳で定年を延長しなければならないような問題も生じない。「第3の男」は果たして、この中から現れるのか。
「花の35期」が皮肉な結果に?
元々、法曹界で検察の35期は「花の35期」と言われてきた。それだけ、優秀な人材が35期に集中していたからだ。黒川、林の両氏以外に、いずれも既に検察官を退職しているが、東京地検特捜部長として陸山会事件を手がけた佐久間達哉氏(法務総合研究所長が最終ポスト)や、消費者庁長官を経て最高裁判事になった岡村和美氏がおり、メディアでの露出度が高い弁護士としては若狭勝氏(元衆院議員)や郷原信郎氏がいる。
もし、黒川氏も林氏も検事総長にならなければ、特に人材が豊富と言われた35期から、検察トップが輩出されないことになり、皮肉な結果となってしまう。
次期総長が見通せないという難局に、検察組織はどう向き合うのだろうか。法改正の是非のみならず、検事総長の後任問題も目が離せない。
(平野 太鳳/Webオリジナル(特集班))