36人が死亡、33人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件は27日、容疑者逮捕という大きな節目を迎えた。殺人事件の犠牲者数としては平成以降で最悪となった未曽有の事件。京都府警は約100人態勢で被害者支援に臨み、警察発表などについて遺族らの詳細な意向を聞き取るという前例のない対応を取った。また、容疑者も命にかかわるやけどを負っており、病院で逮捕したその日に検察庁に身柄を送るなど、捜査も異例の経過をたどった。
遺族意向、詳細に取りまとめ
「ご遺族にはある程度踏み込んだことを言ってもかまわない」。事件に関連して遺族や被害者らに説明をする際、府警はこうした姿勢で臨んだといい、青葉真司容疑者(42)の人物像や容体などを伝えてきたという。
一人一人に合わせた対応が大切だとして、府警は事件発生直後から約100人態勢の「被害者支援班」を発足。捜査本部からも人員を被害者対応に投入して心理ケアも実施するなどして、遺族や被害者への付き添いなどのサポート態勢を取ってきた。
犠牲者の身元の公表も慎重の上に慎重を重ね、匿名発表を要望する京アニ側と発表時期や発表方法を協議するとともに、遺族からは実名報道の可否などの要望を詳しく聞いた。警察の被害者支援で、ここまで詳細に遺族の意向を取りまとめるのは過去に例がないことだった。
その結果、「(匿名だと)臆測が流れたり、誤った事実が流れ、亡くなった方の名誉が傷ついたりする」(当時の捜査幹部)として、遺族の了承を得られ、葬儀を終えた10人についてまず公表。後に25人を明らかにするなどという段階的なものになった。
負傷者対応も重視した。事件では、発生から約10カ月がたった今でも1人が入院を余儀なくされている。また、負傷者の中には「一切誰とも話したくない」と府警との関わりすら拒否するほどショックを抱えた人や「なぜ生き残ったのか」と悩む人もおり、府警の担当者のなかには、事件発生から連日泊まり込みで入院中の被害者に付き添った担当者もいたという。
長期化の可能性も
捜査も異例の展開をたどった。
青葉容疑者自身、大きなやけどを負い、約10カ月にわたって入院。府警は逮捕に至るまで「容体をみながら慎重にタイミングを見極めてきた」(捜査幹部)。青葉容疑者は、大阪府内の病院の集中治療室(ICU)などで高度な治療を受けてきたが、部屋の近くには捜査員が交代しながら24時間配置され、厳戒態勢が敷かれた。
事件から約1カ月後にはほぼ命に別条のない状態まで回復。昨年10月上旬までには会話も可能となり、府警は慎重に体調を見極めたうえで27日、入院先の病院で青葉容疑者を逮捕した。
逮捕後の手続きも通常とは異なった。警察が容疑者を逮捕した際、1~2日後に容疑者の身柄を検察庁に送ることが多い。だが今回、府警は青葉容疑者を逮捕した27日に即日送検した。検事が府警伏見署に赴き必要な手続きを取ったといい、捜査関係者は「何回も移動すれば容疑者に負担がかかる。必要な手続きは押さえつつ日程を圧縮した」と打ち明ける。
事件は今後、取り調べなどが進められるが、青葉容疑者の刑事責任能力の有無や程度を判断するための鑑定留置が行われることも想定される。また、裁判所と検察側、弁護側が協議して裁判で取り扱う証拠や争点を整理する「公判前整理手続き」も被害者が多く重大な事件であることから、長期化する可能性がある。