2014年9月に川崎市の女性(当時43歳)が薬の副作用で死亡したのは、東京女子医科大病院(東京都新宿区)が添付文書に書かれた用量の16倍に当たる抗てんかん薬を処方したためだとして、遺族が病院側に総額約4300万円の賠償を求めた裁判の判決で東京地裁は4日、運営法人と医師2人に計約1500万円の支払いを命じた。佐藤哲治裁判長は「合理的理由なく用法用量を守らない処方を行い、発症する副作用の内容を患者が理解できるように説明する義務も果たしていない」として病院側の過失を認めた。
亡くなったのは脳腫瘍を患い、同病院で治療を受けていた長浜裕美さん。夫の明雄さん(45)と両親が提訴していた。
訴状などによると、長浜さんは別の病院で脳腫瘍の摘出手術をした後、14年1月から東京女子医大病院で化学療法を受けた。けいれん発作があった8月20日から、使用していた薬に加えて抗てんかん薬「ラミクタール」(一般名ラモトリギン)が処方され、添付文書で定められた用量の16倍にあたる1日200ミリグラムを連日投与された。
処方時に量が多いことに気付いた薬剤師が医師に問い合わせたが見直されず、長浜さんはその後全身の皮膚に障害が起こる中毒性表皮壊死(えし)症(TEN)を発症。投与開始から20日後に肺出血を併発して死亡した。
ラミクタールの添付文書はTENなど重篤な皮膚障害があらわれる可能性を警告し、用法・用量などに十分注意するよう求めている。遺族側は処方が用量を逸脱していることや重篤な皮膚障害が起こる危険性を病院から伝えられなかったとして「説明があれば絶対に処方に同意しなかった」と主張。これに対して病院側は「ラミクタールがTENによる死亡を招く可能性は当時一般的ではなく、危険性を予測するのは不可能だった」などと責任を否定していた。
同病院ではこの約半年前に人工呼吸中の小児への使用が禁忌とされている鎮静剤「プロポフォール」を大量に投与された2歳男児が死亡する事故が起きており、安全管理体制の不備を重く見た厚生労働省が15年に特定機能病院の承認を取り消している。【遠山和宏、銭場裕司】