権限一手に握る市係長、業者に「事業費を限界まで上げて」と言われ…豪雨復旧汚職

2017年の九州北部豪雨の災害復旧工事を巡る汚職事件で、収賄容疑で逮捕された福岡県朝倉市係長、鎌田好輝容疑者(49)は、市発注の土砂撤去工事(国の補助事業)で事業費の積算などをほぼ一人で担当していた。専門知識を持つ職員が少なく、熊本地震の被災地に派遣された経験を持つ鎌田容疑者に実質的な権限が集中。チェック機能も働かなかった。

朝倉市街地から約12キロ離れた山間部に、同市黒川・

疣目
( いぼめ ) 地区はある。九州北部豪雨で、同地区を大量の土砂が襲った。道路が寸断されて土砂撤去が進まず、工事が完了したのは昨年9月。この工事を巡り事件が起きた。
「来年、工事がある」。18年末、鎌田容疑者が土砂撤去工事の情報を伝えた相手は、同県久留米市の土木工事会社「九州防水」役員、山口慎二容疑者(49)(贈賄容疑で逮捕)。2人は数年前に知り合い、海外旅行に出かけるなど関係を深めた。
捜査関係者によると、鎌田容疑者は、1社のみに見積もりを出させる「特命随意契約」で元請けに選定する業者名や事業費を山口容疑者に伝えた。山口容疑者からの「(事業費を)限界まで上げてほしい」などとする依頼に応じ、工事区域を当初の約1・4倍に広げて事業費を約4000万円上積みしたという。
鎌田容疑者は見返りに受け取った現金100万円を手に、山口容疑者と韓国でカジノに興じた。2人は容疑を認めている。
特命随意契約は緊急性があり、ほかに発注先がない場合などに行われる。朝倉市の幹部は「どの業者も工事を抱えており、現場の立地も悪かった」と説明する。予定価格は約1億2940万円で、市内の業者が約1億2740万円で受注した。
ところが、九州防水が約1億円でその下請けに入り、別の業者が孫請けになった。関係者によると、実際の作業はほとんど孫請け業者が担い、九州防水は数千万円の利益を得たという。県警は、下請けや孫請けが入った経緯や、工事の実態についても調べている。
元請け業者は読売新聞の取材に「九州防水にお願いされて(下請けに)選んだ」と説明。九州防水は取材に応じず、ホームページでも「コメントは控える」としている。

鎌田容疑者は1991年に建築技術職の技師として入庁した。その影響力が増すきっかけは2016年の熊本地震だった。
16年7月、自ら志願し、応援職員として熊本県益城町に。町によると、17年3月までの間、主に被災家屋の応急修理の申請受け付け業務を担当した。
朝倉市に戻った約3か月後、九州北部豪雨が起きた。
市によると、環境省の補助が付いた土砂などの撤去工事33件はいずれも特命随意契約で、うち97%にあたる32件は鎌田容疑者が一人で工事費用を積算し、業者選定も担っていた。事業費が1億円超の工事も5件あった。当時の上司は「熊本地震で災害復旧工事の経験があり、知識もある彼にしかできなかった」と説明する。
同市では09年に起きた別の汚職事件を受け、業者選定などのチェックを強化した。その役割を担う副市長らでつくる「指名委員会」は、逮捕容疑の工事も承認していた。委員の中に積算の専門知識を持った人はおらず、不正に気づかなかった。
識者「第三者で事後点検を」

復旧工事では随意契約を結ぶケースは多い。
熊本県が熊本地震直後の3か月で発注した復旧工事269件のうち、随意契約は158件。県監理課によると、建築・土木系の技術職員は500人近くおり「複数の目でチェックした」とする。また、有識者の入札監視委員会が3か月ごとに工事を抽出し、契約が適正かどうかをチェックする仕組みもある。
ただ、毎年のように大規模災害が起こり、技術職員は全国的に不足している。朝倉市では、鎌田容疑者と同じ建築技術職はほかに5人しかいない。
五十嵐敬喜・法政大名誉教授(公共事業論)は「価格や業者選定などが適正だったかを専門家らの第三者が事後チェックする仕組みを設けることも考えるべきだ。契約が適正かどうか精査される可能性があることで、不正は起きにくい環境になるのではないか」と指摘している。