福岡県八女市の山中で2015年、知人女性(当時25歳)を高さ約55メートルの橋から転落させて殺害したなどとして、殺人罪などに問われた住所不定の無職、佐久田なつき被告(33)は26日、福岡地裁(柴田寿宏裁判長)の裁判員裁判初公判で「薬を飲ませたり、橋から墜落させたりはしていない」と起訴内容を否認し、無罪を主張した。
起訴状などによると、佐久田被告は15年4月29日未明、同県久留米市やその周辺で、殺意をもって以前同居していた池田麻里さんに睡眠薬を飲ませ、車で八女市上陽町の耳納(みのう)大橋へ連れて行き、橋の上から落として殺害したとされる。同日午後0時55分ごろ、橋の下の沢で池田さんがあおむけで倒れているのを通行人が見つけ、事件が発覚した。
検察側は冒頭陳述で、防犯カメラの映像や目撃証言がない中で、犯行前後の状況を積み重ねて立証する方針を説明。佐久田被告が110番や119番をしておらず、事件後に池田さんの携帯電話を捨てていたことなどを明かした。一方、弁護側は、被告は解離性同一性障害があるいわゆる多重人格者だとし、橋の上で「池田さんが自分で橋の欄干を越えて墜落した」などと主張した。
裁判冒頭で裁判長から名前を聞かれた佐久田被告は別人の名前を告げ「戸籍上は佐久田なつきの名前を有します」と述べた。
また、佐久田被告は15年4月4日未明、当時の久留米市の自宅で、交際していた男性の首をひもで絞めて殺害しようとしたとする殺人未遂罪でも起訴内容を否認した。【宗岡敬介、田崎春菜】
両親が献花「真実が少しでも分かれば」
「これぐらいしか、麻里にしてあげられることがないから」。池田麻里さんが命を落とした現場の橋で6月中旬、両親が花を手向けていた。毎週の献花は、これまで一度も欠かしたことはない。事件発生から5年2カ月がたつ。ようやく始まった裁判に「真実が少しでも分かれば」と両親は願っている。
麻里さんは6人きょうだいの長女。おっとりした優しい子で「親子げんかはほぼしたことがなかった」と母ひとみさん(61)は振り返る。親元を離れた時期も頻繁に福岡県久留米市の実家に顔を見せてくれた。優しい我が子がなぜ殺害されたのか、時間が経過しても分からないままだ。
毎週、車で約30分かけて献花に訪れている。自宅横の野菜畑を花畑に変え、ヒマワリの種は約5000粒まいた。グラジオラスやユリも育てており、この日は購入したガーベラも含め100本以上の花を供えた。1時間以上に及ぶ作業だが、父実さん(65)は「麻里が受けた苦しみに比べたら大したことじゃない。つえをついたって、体が動く限り来るよ」と話す。
弁護士の交代などで公判前整理手続きが長引き、ようやく始まった裁判はすべて傍聴する予定だ。ひとみさんは「事件から5年が経過したが、私たちには何の情報もない。麻里がなぜここに来たのかという思いは消えないまま。証人などの話でそれが少しでも分かればいい」と話した。【宗岡敬介】