「見なかったことに…」で懲戒処分も? 知ってしまった職場の横領、報告義務の“線引き”

横領を見過ごした場合、自らが手を染めずとも責任を問われることはあるのだろうか。インターネットのQ&Aサイトに相談が寄せられている。 相談者が勤める会社では、約3人の社員が横領を行なっているという。取引業者への架空発注によって生じた会社経費を着服するという手口だ。 相談者は先輩にあたる社員から横領の手口を紹介されたという。正義感が強く、自ら手を汚すことはない。しかし、「モヤモヤした気持ち」が晴れず、退職も考えている。 横領の事実を知りながら、会社に伝えないでよいのか自問自答しているそうだ。見て見ぬ振りをすることで法的責任を負うことはあるのだろうか。近藤暁弁護士に聞いた。 ●立場によっては、懲戒処分や損害賠償請求も ーー職場内の横領の事実を会社に伝えないことで、法的責任を問われる可能性はあるでしょうか 結論からいえば、相談者の地位や職責などによっては、相談者自身も債務不履行責任や不法行為責任を負い、懲戒処分を受けたり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。 まず、労働契約上の労働義務は、単に働けばよいというものではなく、使用者の利益を考慮し、必要な注意を払って誠実に履行されなければなりません(労働契約法3条4項)。このような労働義務の一環として、労働者は、職務を行ううえで見知った事項について使用者に報告を行う義務を負います。 もっとも、その報告義務はあらゆる事象に及ぶというわけではありません。 ●不正行為の調査に協力するべきか 参考となる最高裁判例として、「富士重工業事件」(最三小判昭和52年12月13日民集31巻7号1037頁)があります。これは、会社によって他の従業員の不正行為に関する調査が行われた場合にこれに協力すべき義務の限界について判示したものです。 (1)労働者が他の労働者に対する指導・監督や企業秩序等の維持を職責とし、調査に協力することがその職務内容となっている場合は、他の従業員の不正行為に関する調査協力義務を肯定する。 (2)それ以外の労働者の場合、労働者は「企業の一般的支配に服するものではない」として直ちに調査協力義務を認めることはせず、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められる場合に限り調査協力義務を負う。
横領を見過ごした場合、自らが手を染めずとも責任を問われることはあるのだろうか。インターネットのQ&Aサイトに相談が寄せられている。
相談者が勤める会社では、約3人の社員が横領を行なっているという。取引業者への架空発注によって生じた会社経費を着服するという手口だ。
相談者は先輩にあたる社員から横領の手口を紹介されたという。正義感が強く、自ら手を汚すことはない。しかし、「モヤモヤした気持ち」が晴れず、退職も考えている。
横領の事実を知りながら、会社に伝えないでよいのか自問自答しているそうだ。見て見ぬ振りをすることで法的責任を負うことはあるのだろうか。近藤暁弁護士に聞いた。
ーー職場内の横領の事実を会社に伝えないことで、法的責任を問われる可能性はあるでしょうか
結論からいえば、相談者の地位や職責などによっては、相談者自身も債務不履行責任や不法行為責任を負い、懲戒処分を受けたり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。
まず、労働契約上の労働義務は、単に働けばよいというものではなく、使用者の利益を考慮し、必要な注意を払って誠実に履行されなければなりません(労働契約法3条4項)。このような労働義務の一環として、労働者は、職務を行ううえで見知った事項について使用者に報告を行う義務を負います。
もっとも、その報告義務はあらゆる事象に及ぶというわけではありません。
参考となる最高裁判例として、「富士重工業事件」(最三小判昭和52年12月13日民集31巻7号1037頁)があります。これは、会社によって他の従業員の不正行為に関する調査が行われた場合にこれに協力すべき義務の限界について判示したものです。
(1)労働者が他の労働者に対する指導・監督や企業秩序等の維持を職責とし、調査に協力することがその職務内容となっている場合は、他の従業員の不正行為に関する調査協力義務を肯定する。
(2)それ以外の労働者の場合、労働者は「企業の一般的支配に服するものではない」として直ちに調査協力義務を認めることはせず、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められる場合に限り調査協力義務を負う。