2020年の祇園祭は、本来は京都市中心部に建ち並ぶ壮麗な山鉾(やまほこ)が全く見られない、寂しい夏になることが確定した。全34基の山鉾の保存会代表者や山鉾連合会役員らが2日、八坂神社(京都市東山区)へ参拝した後、連合会の木村幾次郎理事長が全ての山鉾を建てない方針を正式に表明した。木村理事長は「疫病退散を本義とする祭りで、病人を出しては本末転倒だ」と理由を説明した。
連合会は新型コロナウイルスの感染防止で「3密」を避けるため、山鉾行事は前祭(さきまつり)(17日)と後祭(あとまつり)(同24日)の巡行をはじめ、曳(ひ)き初めなどの中止を4月の段階で決めていた。ただ、869年に当時の国数66本の鉾を建て、疫病退散を祈ったという祭りの起源となる記録もあり、感染状況などを見ながら、山鉾建ての可能性を探っていた。
しかし、緊急事態宣言が全面的に解除された5月25日、全国から観光客が集まるような祭りは7月末まで見合わせるよう、政府が方針を提示。屋外イベントの人数も7月10~31日は5000人以下とされたため、山鉾建ての自粛を各保存会に要請する方向に傾かざるを得なかった。
巡行の中止を発表するまでに全ての保存会を対象に実施したアンケートでは、「できる限り通常に近い形」で祭りをしたいという回答が11あり、6月に入っても建てる意向を示していた山鉾町があった。「疫病の年だからこそ」という熱意が伝わるだけに調整に時間を要し、例年なら巡行順を決める「くじ取り式」の最中だった時間の方針表明となった。
それでも、木村理事長は参拝後のあいさつの中で「状況を見て前祭、後祭で『何か』できないか協議している」と明かした。21年とその先に祭りをつなぐための「何か」に、市民は期待している。【矢倉健次】