東日本大震災の津波で犠牲になった石巻市南浜の阿部きうさん(当時99歳)の遺骨が2日、震災から約9年4カ月を経て、親族に引き渡された。震災直後に遺体で見つかってから身元が分からなかったが、県警の捜査で阿部さんと確認された。【面川美栄】
石巻市内の霊園で同日、市職員が白い布に包まれた骨箱をおいの管野一之さん(79)に引き渡した。管野さんは「来年3月で震災から10年になるのを前に伯母が見つかり、感謝感激。ようやく私の胸に抱えられて喜んでいると思う」と話した。
遺体は震災の2カ月後、自宅から約13キロ離れた石巻市竹浜の入り江で発見された。阿部さんは1960年ごろに夫と死別して子どももいなかったが、DNA鑑定などの結果、身元の特定に至った。
阿部さんは6男4女の10人きょうだいの一番上で、しっかり者だったという。町内会では婦人部のまとめ役を務め、近所の人からも慕われていた。管野さんは月に3回ほど、1人暮らしの阿部さんを訪れて草刈りなどをした。「厳しい人だった。意地っ張りというか『迷惑をかけられない』というところがあったのだろう」。正月飾りを手伝うと遠くから見て「曲がっている」と言われたが、作業が終わると感謝の言葉をかけられたという。
管野さんは震災で、阿部さんの妹に当たる母たえ子さん(当時97歳)を亡くした。自宅で津波にのまれかかっていたたえ子さんを助けようと両腕をつかんだが、水につかった体は重たく「離せ」と言われたのが最後だった。11年6月にたえ子さんの葬儀を行った際、行方不明だった阿部さんも弔ったという。
2日午後に市内の法山寺で、阿部さんの供養と納骨が行われた。北村暁秀・副住職は「人格者で、人をほっとさせる生き仏みたいな方だった。自分なりに仏壇の掃除などを欠かさないでニコニコしていた」としのんだ。
これで震災による犠牲者で身元が分かっていないのは7人となった。県警身元不明・行方不明者捜査班の菅原信一班長は「地道に捜査してきて、感無量。あと7体の身元判明にも近づけるのかなという気持ちでいっぱい」と話した。時間の経過とともに確認はさらに難しくなっており「ささいな情報で構わないから連絡いただければ」と呼びかけた。
問い合わせは同班(022・221・7171)。県警のホームページでも、身元が分かっていない人の似顔絵や発見時の衣服などの写真を公開している。