食べ放題店の「残すと罰金」は合法?弁護士の見解

◆一枚も食べられないほどマズかった焼肉食べ放題での出来事

決まった金額で好きなものを好きなだけ食べることができる食べ放題。注文したものを店員が運んでくるスタイルや、バイキング形式で自分で取りに行くスタイルなど様々だが、いずれにせよテンションが上がるという方は多いだろう。

しかし、ある日筆者はこんな噂を耳にした。それは、

「都内某所に2,000円で焼肉食べ放題のお店があり期待して訪れたものの、2回噛むと口から出してしまうほどのマズさで、タイヤを食べさせられているような驚きの食感だった。何の肉かも不明でデカい皿に大量に肉を盛って客に提供していた。あまりにマズいので残して店を出ようとすると食べ放題と同額の2,000円の罰金を取られてしまった。おそらくこの店は、残したら罰金を取るルールで稼いでいるようだ」

というものだった。真偽のほどは定かではないが、確かに食べ放題の店にはよく「大量に注文し残すのはご遠慮下さい」や、「食べ残しのあった場合には○○円の罰金を頂きます」などと記載しているのを目にする。しかし、明らかにマズい料理を提供しておいて「残したら罰金」というのはあまりにもひどい話であり、法に触れるのではないだろうか? そこで、ベリーベスト法律事務所の松井剛弁護士に疑問をぶつけてみた。

◆客が民法第709条で訴えられることもある?

そもそも、「食べ放題で残したら罰金」というのは法的に問題ないのだろうか。「商品を受け渡した時点でその商品の所有権はお客側に行くのだから、食べようが残そうがお客の勝手だ」という見解もよく耳にするが、松井弁護士によると、食べ放題のお店と一般の飲食店で【契約】というものの考え方が変わってくるのだという。

「まず、一般的な飲食店の場合、客が注文し店が注文を受けた時点で【契約】が成立します。その場合、店側は客に注文を受けた商品を提供するという【債務】を負います。【債務】を履行するからこそ対価を【請求】することができるのです。

一般の飲食店では、例えば牛丼を1杯注文した場合、客はその分の代金さえ支払えば受け取った牛丼を食べても残しても法的には問題はありません。食べることは権利であって義務ではないからです。しかし、食べ終えた客が『美味しくないからお金を払いません』ということは通常できません。店側は契約に基づききちんと商品を提供しているわけですから」(松井剛弁護士、以下同)

これは納得できるだろう。しかし、食べ放題の店の場合、【契約】の形が異なるのだという。

「食べ放題の店では、客が注文をする限り、制限時間の範囲内であれば店側は料理を提供し続けなければならず、店側の【債務】が無限にある状態です。

そのような食べ放題の性質上、客としては、食べることは権利ではあるものの、不必要に注文をしたり料理を確保したりして店に損害を与えることをしないという信義則上の義務を負うと考えられます。

お客さんがその義務に違反して、食べきれないであろう量を持ってくることで他の客が食べる機会を奪ってしまうような行為をした場合には、不法行為(民法第709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」)に該当し、罰金の定めがなかったとしても損害賠償請求の対象となる可能性があります」

そのため、店側が明確なルールを定めることは問題ないのだという。

「罰金の金額が合理的な金額であれば、そういう定めをすること自体は法律には抵触しません。合理的な金額、について基準を定めることは難しいですが、食べ物の提供価格やその原価に応じて決まってくると思います。

例えば、食べ放題が1,000円の場合と10,000円の場合では原価も異なるでしょうから、罰金の金額も変わってくるでしょう。食べ放題の金額よりはるかに高い罰金を取るのは問題になる可能性があります」

つまり、食べ放題の店で食べ残しに対し罰金を取ること自体に法的な問題はないということだ。しかし、それが常識の範囲を超えるものである場合には問題があるということになる。

◆「マズすぎたから残した」は法的にどう立証する?

では、「マズすぎたから残した」場合でも罰金を取ることは問題ないのだろうか。噂にあったような「タイヤを食べさせられているような」とか「何の肉かもわからない」ものを提供されたのでは、さすがに「騙された!」と言いたくなってしまうし、料金を払うのも腹立たしい。

「この場合、法律家としては【契約】に基づき、店としてなすべきことをしていたかどうかという観点に注目します。【契約】上行わなければならなかった自分たちの【債務】(=この場合は「食べ放題の食べ物を提供しないといけない)を果たすことができていたのかが論点になります。

マズい、とか美味しい、とかは人によって味覚も異なりますので法律的には判断が難しいところです。そのため、裁判などであれば裁判官は『とても一般人が食べられるものではないかどうか』『品質として適切だったのか(賞味期限が切れていないかなど)』『レシピ的に問題はないか(「100gの肉に塩1kg」といった極端な味付けをしていないか)』などで判断します。これらに問題があれば、お店側は【契約】に基づく債務を履行していない、つまり料理を出していないのと同じことになりますので、客が罰金を払う必要はないと判断されるでしょう」

「マズかった」というのは主観であり、法的な立証は難しいということか。可能な限り口コミなどを参考にして店選びをし、不可解な点があれば事前に確認してから店に入るしか方法はないのかもしれない。とはいえ、そこまで悪質な店はそうそうないだろうが……筆者が聞いた噂はガセネタであることを祈る。
<取材・文/松本果歩>

【松本果歩】
恋愛・就職・食レポ記事を数多く執筆し、社長インタビューから芸能取材までジャンル問わず興味の赴くままに執筆するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり、店長を務めた経験あり。Twitter:@KA_HO_MA