日本は世界でも有数のポルノ大国だ。日本のAVは海外のポルノサイトでも人気があるが、国内では女優たちはただ作品の中で役を演じるだけでなく、「会えるアイドル」としてファンサービスも多く行っている。「ファンタジー」であるはずのAV作品の中だけに存在していたAV女優たちは、今やSNSをやっていて、いつでもDMやリプライを送ることができて、イベントに行けば会って話すことができる。
しかしAV女優たちがSNSでより身近な存在になった今、ファンの中には、勘違いをしたり、認知が歪んでしまったりする人も出てきている。
◆実際にレイプ願望があると勘違いしている人がいる
2020年5月、あるAV女優がAV業界を引退した。彼女の名前は「唯乃光」。企画単体女優として、1年ほどAV業界に身をおいていた。
引退の直前、彼女はTwitterでAVユーザーが抱える「認知のゆがみ」を必死に訴えていた。そして、この発信を行うことで「業界に居づらくなる」ともつぶやいていた。
筆者は今回、実際に唯乃光さんにコンタクトを取り、彼女がAV女優として感じていた、ユーザーの「認知のゆがみ」による苦しみを本人の口から聞いた。
◆実際にレイプ願望があると勘違いしている人がいる
唯乃さんはSNSでの被害について、こう語る。
「今、AV女優は個人でSNS発信をすることがほぼ義務になっています。SNSで交流することで、直接自分のファンをつけないと売れない。イベントに来てくれたファンとSNSでも繋がって、認知して……ファンと気軽に交流できるという意味では、SNSでもはとても便利です。でも、私たちはファンとクリーンに交流することがとても難しい。
リプライではクリーンな発言が多い人でも、DMというクローズドな場になるととたんに発言が卑猥になる。知り合いになりたい、セックスさせて、援交しよう……直接陰部の写真を添えてくる人もたくさんいます。
確かに私たちはAVに出て、エロを表現している。でも私たちは『女優』であって、演者なんです。私たちはそれぞれ女優業とは別に個人の価値観や性格を持っています。それを忘れて”ビッチ”や”レイプ願望がある女”など、作品の中の役割でしかない部分を私たちの本当の人間性だと思ってしまっている人も多いです」
男性器の画像や「セックスしたい」といったDMは、朝から晩まで一日に何十通も届くという。食事中も、電車での移動中も……もはや「陰部テロ」だ。AV女優もひとりの女性であり、私生活でセクハラをしたり、卑猥な言葉を投げかけたりしてもいいわけではない。しかし一部のファンは、そうしたことが分かっていないのだ。
「引退する前も、『陰部の画像を送るのはイヤだからやめてください』と何度か発信しました。でも、誰もそれをまともに受け止めない。実際に陰部を送りつけるような人は”イヤならAVやめろ”と言ってくるし、応援してくれているファンも事務所も”そういう発言はファンが減るからやめた方がいいよ”と言います。
AVはフィクションだけど、私たち女優はフィクションじゃない。でも、存在そのものをコンテンツだと思われていて、リアルな人間性が出る発言は”萎える”とフォロワーからは言われます。
そしてその風潮を作っているのはファンだけではなくて、業界にも原因がある。SNSはメーカーへのアピールツールとしても機能しているので、感情的な部分をSNSで出してしまうと、仕事をくれるメーカーさんにメンヘラで面倒そうな女と思われたら仕事がこなくなる、という暗黙の抑圧もあります。だから、イベントやSNSでのファンとの交流の中で、つらいことや怖いことがあっても、自分で声を上げることができず泣き寝入りしてしまう子も多い」
◆個人撮影会では密室に二人きりになることも
SNSでの認知のゆがみは、イベントや撮影会など、実際に対面することになった時、最も恐ろしい形で現れるという。
「売り出し中の新人ほど、最初は作品に出演するよりも、撮影会などの会えるリアルイベントの仕事を増やされます。撮影会の中には”個人撮影会”という、スタッフさんもいない密室で二人きりで撮影するようなものもあります。
中にはそこで、胸やお尻、陰部などを触ってこようとする人もいるし、風俗的な行為を頼んでくる人もいます。それを断ると、逆に自分のものを見せてこようとする人もいる。そういう人を出禁にすることもできるけれど、SNSでの距離感が近すぎて、友達のような距離感で逆恨みされることもあります。
会場から出る時にストーカーされるかもしれない。相手は私たちを”むしろヤラれたいと思っているビッチ”だと信じていることがある。怖すぎますよね」
AVによっては、痴漢モノやレイプモノなど、本来なら性犯罪に当たるものもある。痴漢モノに出演する女優とSNSで交流し、自分が痴漢してあげたら喜ぶかもしれないと勘違いしてしまう男性もいるということだ。
「事務所はプライベートまでは守ってくれません。でも、自分でいざ声をあげたら”印象が悪くなるよ”と苦笑いされる。ファンとメーカーの目を気にした”苦笑い”で黙認するのみで、積極的に対応して守ってくれるということはありません。そして、何か問題が起きるとしたら、前に出ている私たち演者が被害を受けることになるんです」
◆エロは好き。でも、性犯罪にははっきり「NO」と言いたい
認知のゆがみによるファンのセクハラDM。さらに、それをこじらせて撮影会やイベントなどの”会える”場所にまでその認知を引きずって持ってきてしまうファンもいる。そこまで来ると、性犯罪一歩手前だ。
「性欲をぶつけられるのがイヤなら、AV女優やめろと言ってくる人もいるけど、私の作品に性欲をぶつけてくれる分には全く違和感を感じません。私個人は元来、エロが好きであることには間違いないんです。ただ、エロが好きであっても、性犯罪にはNOと言いたいです。顔も分からない匿名の誰かの直接的な性的発言を真摯に受け止めることはできないし、性的合意が取れていない人とは性交渉もしません。
AV女優はエロい、それは間違いではないかもしれません。けれど、私たちはセックスを演じるのが仕事です。作品の中の役割でなく、女優個人の人間性を、業界もファンも、もっと認めてほしい」
撮影がない日でも、SNSでも発信を続ける。例えば人妻としてデビューしたら、SNSでも人妻として振る舞わなければいけないのだという。AV業界では、女優の個人アカウントまで含めてフィクションでコンテンツなのかもしれないが、中の人はリアルな人間だ。
日本はポルノ大国ではあるが、性教育については後進的だ。セックスリテラシーは高まりづらいのに、幼い頃からポルノに触れることができてしまう。
女優はフィクションでないと、AVが売れない。ただ、そのままにしておいたら、いつかこの認知のゆがみが原因で、性犯罪が起きかねない。そうなってからでは遅い。
業界の体質を変えたり、性教育やネットリテラシーで消費者を啓発したりする必要があるのではないだろうか。
<取材・文/ミクニシオリ>
【ミクニシオリ】
1992年生まれ・フリーライター。週刊誌などにアングラな性情報、最新出会い事情など寄稿。逆ナンや港区合コンの現場にも乗り込み、恋愛経験を活かしてtwitterで恋愛相談にも回答。カルチャーにも素養がある生粋のサブカル女子。Twitter:ライタ~ミクニシオリ