九州を襲った記録的な豪雨により熊本県人吉市の球磨川で決壊した2カ所の堤防は、川の流れによるものではなく、既に氾濫していた水が球磨川に戻る際の勢いで決壊したとみられることが、国土交通省九州地方整備局などへの取材で判明した。堤防を決壊させるだけの大量の水が田畑や住宅地側を流れていたことになり、今回の豪雨のすさまじさが改めて浮き彫りになった。
人吉市内を流れる球磨川の堤防は、豪雨により右岸の中神町馬場地区で約30メートル、左岸の同町大柿地区で約10メートルにわたって決壊した。現地を調査した九地整などによると、決壊箇所には田畑や住宅地側から球磨川に向かって大量の水が流れた痕跡が残っていた。
この付近の球磨川はS字状に流れているが、豪雨当時は氾濫により堤防自体が水没し、幅広の直線状の川になっていた。水位は一時、堤防より2、3メートル高くなっていたとみられる。氾濫場所の後ろには山が迫っているため、あふれた水の逃げ場がなく、氾濫した水も水位が高いままだった。その後、雨が収まり球磨川の水位が急低下したことで、田畑や住宅地側にあふれていた水も球磨川に勢いよく流れ込み、その際に決壊した可能性が高いという。
九地整によると、人吉市内では遅くとも4日午前6時半ごろに決壊箇所よりやや上流の堤防で越水が確認された。午前9時50分には市内の球磨川の水位がピークの7・25メートルに達し、観測史上最高だった5・05メートル(1965年7月)を大きく更新。午後3時ごろには3メートルほどまで下がった。
球磨川流域は再三水害に見舞われ、国や熊本県、流域自治体は戦後最大の被害となった65年7月の豪雨と同規模の水量を安全に流せる治水のあり方を検討してきたが、今回の豪雨は目標とする治水の基準を大幅に上回ったことになる。
堤防調査委員会の委員長を務める九州工業大の秋山寿一郎名誉教授(河川工学)は、決壊前に氾濫した今回は、決壊により浸水被害が拡大したわけではないと指摘。その上で、水位が堤防の高さを大きく上回った事実を踏まえ「これほどの水量になれば堤防だけで防ぐのは現実的ではない。気候変動の中、国の治水方針のあり方も考え直す時にきている」と話した。
氾濫した水による堤防決壊は、2018年6~7月の西日本豪雨や19年10月の台風19号でも確認されている。【平川昌範】