九州豪雨の発生から18日で2週間。合わせて45人の死者が出た熊本県人吉市と球磨村を管轄する「人吉下球磨消防組合消防本部」のトップ、深江政友消防長(60)が当時の救助活動を振り返った。通報がパンク状態の中、消防本部自体が床上浸水し、消防車両も身動きできなくなる過酷な状況だった。【中里顕】
――豪雨では人吉市で20人、球磨村で25人が亡くなる甚大な被害が出た
非常に残念だ。特定非常災害に指定された2019年の台風19号などを踏まえ、消防本部では予防的避難の重要性を伝える住民との座談会を開いてきたが、新型コロナウイルスの影響で十分な機会を持てなかった。住民には「まさか」という気持ちがあり、消防と意識の溝が深すぎた。溝を埋められなかったことが被害拡大の原因と思う。
――災害当時の状況は
私が人吉市にある消防本部に着いたのは4日の午前2時半ごろだったと思う。その時はそれほど通報はなかった。しかし、国土交通省のデータを確認していると、どんどん球磨川の水位が上がるので、まずいと感じた。午前6時過ぎに球磨村方面に避難の呼びかけに出かけたが浸水で先に進めない状況になっていた。消防本部の周辺でも近所の人が窓から助けを求めており、ロープをつないだ職員に泳いで救助に行かせた。
――時間の経過と共に消防には救助要請の通報が殺到した
パンク状態だった。1秒の間もなく救助を求める電話があった。その後、浸水の影響からか電話が不通になり、夕方まで救助要請を受けられない状態になった。無線で自治体と情報共有するネットワークも構築しており、その訓練もしていたが実際の災害では思うように活用できなかった。他の対応に追われて無線でのやりとりができなかったというのが実情だろう。
――人吉市にある消防本部も浸水被害を受けた
午前9時ごろから浸水が始まりそこからが早かった。2階までは来なかったが1階は床上浸水している。消防本部が浸水する可能性は認知していたので、災害時は機能を高台にあるさくらドーム(球磨村)など4カ所に分散する計画を持っていた。しかし、殺到する救助要請への対応で計画通りにいかなかった。浸水で緊急車両は出動先で身動きが取れなくなり、消防本部の車両も使用できなくなった。救助にあたる車両がないことが活動の足かせになった。
――今後の対応について
避難をせずに救助される方を少なくしなければ、犠牲もやはり少なくならない。行政と住民の避難の溝をできるだけ埋める対策に全力を尽くす。惨事ストレスを抱えた職員もおり、今後のケアも重要だ。