イージスに敵基地攻撃…半田滋氏が懸念する「政治家の暴走と危うい文民統制」

【注目の人 直撃インタビュー】

半田滋氏(防衛ジャーナリスト)

陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の計画が突然、中止になり、その代替策として「敵基地攻撃能力」の保有が取りざたされ始めた。自民党は今月中に提言をまとめ、政府の国家安全保障会議の議論に反映させる意向だ。トランプ米大統領による「兵器爆買い」のゴリ押しから始まったイージス・アショアだが、そもそも必要だったのか。それがなぜ敵基地攻撃に発展するのか。今年3月まで東京新聞の防衛担当だった、この問題を最もよく知るジャーナリストに聞いた。

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――イージス・アショアの中止決定は唐突感がありました。一体、何が起きていたのでしょうか。

河野大臣が表向きに言っている通りで、安全にブースターを落とすには、12年の年月と2200億円かかるという理由です。もともとイージス・アショアは公表ベースでは、総額4664億円(30年間)と言われていた。しかし、これはレーダーと管制システムだけの値段で、1発50億円くらいの迎撃ミサイルを48発買うというので弾代だけで2500億円。総額7000億~8000億円になり、ブースターの改修費用をのせると1兆円もかけるんですかという話。費用対効果もさることながら、12年後の東アジア情勢ってどうなるか分からないですよね。巨額投資に見合うのか、と河野さんが考えたのは間違いない。

■制服組にモチベーションがなかった

――イージス・アショアは、安倍首相とトランプ大統領の政治案件でした。

普通、自衛隊の武器というのは、陸、海、空のどこかが欲しいと手を挙げて要求するものです。しかし、イージス・アショアはどこも手を挙げていない。政治案件で上から下りてきたので、背広組の内局案件なんですよ。内局が武器を買うなんておかしいでしょう。海自はイージス護衛艦、空自はPAC3を担当している。陸自は何もやっていないよね、ということでイージス・アショアは陸自に回った。だから現場にモチベーションがまったくなかった。

――秋田と山口が配備候補地に決まった後も、失態続きでした。

陸自には、おそらく世界一優秀な「施設科部隊」がある。外国で言うところの工兵部隊、工事をする部隊です。カンボジアPKO以来、海外活動で頑張っているのはこの部隊なんです。1級建築士がごろごろいる。本来なら彼らが適地を探せばよかった。施設科がやっていれば、グーグルアースなんかを使って数字を読み間違えるなんて、あり得なかった。

――陸自ではなく、内局が候補地を選んだということですか?

そう。政治案件だから、やらなきゃいけないとなっていたのは背広組。もうひとつ、陸自にやる気がないなと思ったのは、民家の上にブースターが落ちる危険性を避けるのであれば、離島やメガフロートを造ってイージス・アショアを置いたっていい。そうした議論はあったけれど、結局、顧みられていません。

実は、山口県の見島に空自のレーダーサイトがあるんです。だけど空自も「なんで俺たちの敷地に入ってくるんだよ」と嫌がるわけです。要するに、自分たちが希望したのであれば、いろんな調整をして、実現のために努力する制服組が、今回はまったく仕事をしなかったということなのです。

――イージス・アショアをやめるとなったら、今度は「敵基地攻撃」という話が出てきました。

北朝鮮は2014年ごろからミサイル発射を頻発させていましたが、防衛省としてはイージス護衛艦が倍増されるし、迎撃ミサイルの射程も伸びるので十分対応できると考えていた。ところが、安倍首相がトランプ大統領から迫られてイージス・アショアを含む米国製兵器の爆買いを決めた。だから、そもそもイージス・アショアは必要不可欠なものではないわけです。ところが、17年12月に閣議決定した後、防衛計画の大綱も18年12月に変えて、嘘から真をつくってしまった。イージス・アショアがなくなったら、代わりの手当てが必要だという議論は、土台のない家を建てているようなものです。

――自民党の国防部会などが「やめるのはいいけど、じゃあ防衛体制はどうするんだ」と言っていますが、不要な議論ということなんですね。

バカみたいな話ですよ。防衛計画の大綱で「護衛艦いずもの空母化」とか言っているでしょう。海自はそんなの望んでいなかったし、空自もいずもの上にF35Bという新しい戦闘機を載せたいなんて望んでいない。これも政治案件なんです。

なぜそうなるかというと、今の大綱は、自民党の国防部会がたたき台を作り、それを受け、防衛省ではなく初めて首相官邸主導で作ったからです。国家安全保障会議が自民党のたたき台を丸のみした。その中にいずもの空母化があって、自衛隊の人たちは仰天したんです。昔の軍部が暴走した反省から、我が国はシビリアンコントロールを採用したのですが、今や政治家が暴走し、シビリアンコントロールが危うくて仕方がないという事態なのです。

運用面、財政面、法理面の3つの無理

――では、敵基地攻撃の議論は自衛隊を困惑させていると。

現場にとっては迷惑な話。これまで専守防衛で守りのための兵器を揃えてきた。兵器体系が全く違うのですから。それに、イージス・アショアを導入した閣議決定からすれば、敵基地攻撃の想定は北朝鮮です。しかし、北朝鮮の固定された基地はムスダンニとトンチャンニの2カ所があり、どちらも中国国境に近すぎて、自衛隊が攻撃したら中国軍にやられてしまう。

あとは移動式の車載式発射機で、米国防総省はこれが最大200台あるとみている。どこに隠されているかわからず、見えない敵を探してやっつけることなんてまずできないでしょう。加えて、最も重要なのは「ヒューミント」と言って、スパイです。攻撃するには、移動式の発射機を常時見ているスパイからの情報が必要です。しかし、北朝鮮にそんな人いますか。だから敵基地攻撃なんて不可能なのです。

――机上の空論だということですか?

もうひとつ皆が忘れているのは、北朝鮮が日本にミサイルを撃つような場面なら、既に朝鮮半島が戦争になっているでしょう。そうした前提がすっ飛ばされている。もし韓国とは無関係に日本だけが対象にされているなら、それは日本が巻き込まれている有事。敵基地攻撃どころではなく、全力で自衛隊が戦わなきゃいけない事態です。要するに、木を見て森を見ない議論をしているわけですよ。

もちろん一部、自衛隊が攻撃的兵器を買い始めている事実はある。いずもの空母化も含めて攻撃的兵器への移行ですが、政治が本格的にそれを決めるなら、今ある防衛的兵器に上乗せすることになるので、防衛費はいまの5兆円どころか10兆円でも足りません。

――先制攻撃になるから憲法改正が必要だという見解もあります。

鳩山一郎内閣の時に「敵基地攻撃は自衛の範囲」との政府見解を示していますが、前提として「他に適当な手段がないと認められる限り」という言葉がある。日米安保条約は何なんですか、という話です。第5条に日本が攻撃されたら米国も対処すると書いてある。米軍による攻撃は「他に適当な手段」にあたる。政府見解からこの部分を削除するならば、先制攻撃としかなりません。先制攻撃は憲法9条で認められていないので、憲法を改正するしかない。つまり、敵基地攻撃をするには、運用面、財政面、法理面の3つの無理が重なり、できない、というのが常識ある人の結論だと思います。

■でっちあげ提言の裏の狙い

――心配なのは、安倍首相も会見で「敵基地攻撃」の言葉を出すなど前向きだということです。

先ほどの3つの問題をクリアしないかぎり無理なので、言葉としては何かでっちあげるかもしれないけれど、実現はほぼ無理じゃないでしょうか。

――提言としてまとめるだけになると。

すぐに現実にはならなくとも、長い目で見たら攻撃的兵器を増やすことはいいことだと、自民党は考えているのでしょう。そうなれば、米国の後をどこまでもついて行くことができるようになるのですから。国民に対してはイージス・アショアの穴埋めと言いつつ、一方でそうして揃える攻撃的兵器体系が、米国の戦争に協力する場面で役立つことは当然、理解しているはずです。第2の英国になって、ますます妾として米国にかわいがってもらえる。自民党にはそういう狙いまであるんじゃないかと思います。

(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)

▽はんだ・しげる 1955年栃木県宇都宮市生まれ。下野新聞社を経て、91年中日新聞社入社。92年から東京新聞社会部記者として防衛庁を担当。93年防衛庁防衛研究所特別課程修了。論説兼編集委員を経て、20年4月からフリー。独協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。「零戦パイロットからの遺言─原田要が空から見た戦争」(講談社)、「日本は戦争をするのか─集団的自衛権と自衛隊」(岩波新書)など著書多数。