特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)が関与したとされる市民襲撃4事件で、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)などに問われた同会トップで総裁の野村悟被告(73)とナンバー2で会長の田上不美夫(たのうえふみお)被告(64)の福岡地裁での公判で、延べ91人の証人尋問が終結した。両被告から直接指示を受けたとする証言は出なかったが、検察側は両被告と被害者がつながる事件の背景をあらわにしようとした。全面対決の舞台は30日から始まる被告人質問へと移る。
審理されているのは、元漁協組合長射殺(1998年)▽元福岡県警警部銃撃(2012年)▽看護師刺傷(13年)▽歯科医師刺傷(14年)――の4事件。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う中断を経て、検察側証人延べ88人、弁護側証人3人が証言に立ち、初公判から約9カ月で証人尋問を終えた。
4事件はいずれも両被告の出身母体である2次団体「田中組」の組員らが中心となって関与しており、公判では実行役など複数の組員が証言した。
元漁協組合長射殺事件では、実行役に「田中組」から100万円や50万円が送られ、妻にも毎月5万円が渡されていたことなどを元組員が証言。元警部銃撃事件では、事件後、田中組幹部から現金50万円が渡されたと実行役が語った。看護師事件では、事件後に実行役が組織内で昇進していたことが明らかとなった。
検察側は、4事件の背景にも迫り、両被告の関与をあぶりだそうとした。
元漁協組合長事件では、北九州市の大規模港湾工事や漁業補償を巡り、影響力があるとされる被害者側が工藤会側の利権介入を拒んでいた。元組合長の長男は事件後、田上被告から「表を歩けるようにせんといかんのと違うね」と電話を受けたと証言。襲撃された歯科医師は元組合長の孫で、親族男性が同会が漁協利権を狙っていたと明かした。
銃撃された元警部は長年工藤会捜査を担当して両被告と面識があったが、元組員に野村被告を批判しており、野村被告が「最後に悪いもん残したな」と告げていたと同僚だった警察官が述べた。看護師事件では、脱毛施術などを痛がる野村被告に「入れ墨より痛くないやろ」などと言った看護師が狙われ、元同僚は、事件報道で被害者名が出ていないのに「あの人は刺されても仕方ない」と野村被告が話していたとした。
一方、公判では両被告の関与を明確に否定する組員もいた。歯科医師事件では田中組幹部が「(指示したのは)総裁ではない」と否定。別の田中組幹部は法廷でうその証言をしないという宣誓を拒否する一幕もあった。別の幹部組員は野村被告を「隠居」、田上被告を「象徴」と表現し会の運営に口出しすることはなかったとも述べた。
30日から始まる被告人質問では、無罪主張の両被告が何を語り、どのように反論するかが注目される。
野村被告らが問われている市民襲撃4事件
①元漁協組合長射殺 1998年2月に元漁協組合長(当時70歳)が北九州市小倉北区で射殺される
②元福岡県警警部銃撃 2012年4月、元警部の男性(当時61歳)が同市小倉南区で撃たれる
③看護師刺傷 13年1月に看護師の女性(当時45歳)が福岡市博多区で刺される
④歯科医師刺傷 14年5月、元漁協組合長の孫の歯科医師(当時29歳)が北九州市小倉北区で刺される