中国の火星着陸を目指す無人探査機「天問1号」を搭載した大型ロケット「長征5号」が23日、打ち上げられた。「宇宙強国」を掲げる中国は世界最短で宇宙プログラムを発達させてきた。昨年は、無人の月面探査機を世界で初めて月の裏側に着陸させた。
ただ、火星は月よりはるかに遠く、地球からの通信も難しい。中国は来年、共産党創立100年の節目を迎える。その年に「天問1号」の火星着陸に成功すれば、絶好の国威発揚となろう。
昨年公表された中国国防白書は「宇宙は国際的戦略競争の要点」と述べる。2016年末公表の宇宙白書でも、宇宙空間の軍事利用を否定していない。実際、軍事目的での宇宙利用を積極的に行ってきた。18年末には、中国版GPSとも呼ばれるグローバル衛星測位システム「北斗」を全世界で運用開始した。
前出の「長征」など、衛星運搬ロケットの開発や生産は、中国の国有企業が担う。同じ企業が弾道ミサイルの開発や生産も行う。最新版「防衛白書」を借りよう(2020年版)。
「中国の宇宙利用にかかわる行政組織や国有企業が軍と密接な協力関係にあると指摘されていることなども踏まえれば、中国は宇宙における軍事作戦遂行能力の向上も企図していると考えられる」
中国軍が触手を伸ばす領域は宇宙空間だけではない。昨年公表された中国の国防白書は「インテリジェント化(=智能化)戦争が初めて姿を現している」と、AI(人工知能)の軍事活用に意欲を隠さない。「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれる、将来の戦闘様相を一変させる最先端技術の獲得も目指す。
その他、海洋やサイバーなどの「新興領域」を「軍民融合」の重点分野とし、平素から国をあげて注力している。
さらに、「新型コロナウイルス感染症への対応に際しては、軍の統合運用のみならず民間資源の動員が行われている」(前出の防衛白書)。新型コロナが中国の「軍民融合」に拍車をかけた格好だ。
他方、日本はどうか。前国家安全保障局次長の兼原信克教授(同志社大学)は、こう嘆く。
「政府は、日本が保有する軍事転用可能な『機微技術』の全体像を知らない。(中略)防衛技官は自衛隊の装備には詳しいが、将来の戦闘様相を変え得る民間の先端技術に関心が低い。逆に他の省庁の技官は、所管業界の先端技術がどう安全保障の世界を変えるか想像できない。大学に至ってはなおさらだ」(4月10日、日経新聞朝刊)
政府にして、このありさま。加えて、「日本の防衛産業は危機的状況にある」(同前)。改革なくして成長なし。もはや抜本的な構造改革なくして安全保障もない。
■潮匡人(うしお・まさと) 評論家・軍事ジャーナリスト。1960年、青森県生まれ。早大法学部卒業後、航空自衛隊に入隊。第304飛行隊、航空総隊司令部、長官官房勤務などを経て3等空佐で退官。拓殖大学客員教授など歴任し、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『安全保障は感情で動く』(文春新書)、『誰も知らない憲法9条』(新潮新書)など。