難病の筋
萎縮
( いしゅく ) 性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51歳)に対する嘱託殺人事件では、医師の大久保
愉一
( よしかず ) 被告(42)(京都地検が嘱託殺人罪で起訴)が、SNSで「安楽死」に関する極端な持論を展開していた点に注目が集まった。なぜ医師の立場で事件を起こしたのか。投稿は10年で2万件以上に及び、犯罪心理の専門家が背景を分析した。
大久保被告は2010年3月、ツイッターで匿名のアカウントを開設。逮捕された今年7月までに約2万2000件を投稿した。
医師として担当した高齢患者に触れる投稿が多く、当初から延命治療に疑問を呈する持論を展開。12年11月、「『安楽死させてくれ』と言われた医者の気持ちがよくわかる」と初めて「安楽死」という言葉を使った。
内容は徐々に過激になり、13年1月以降、「将来の夢『ドクターキリコ』」などと漫画に登場する安楽死専門の医師に触れた投稿が少なくとも17件あった。
亡くなった女性とツイッターで知り合ったのは18年12月とされ、この頃から安楽死に関する投稿が急増した。17年までは安楽死という言葉がある投稿は年数件程度だが、18年は17件、19年は117件になった。
一方、事件を起こして医師免許を失うことや、捜査対象になることを警戒する投稿も目立ち、「逮捕」という言葉は23件、「捜査」という言葉も37件あった。
投稿を分析した関西国際大の中山誠教授(犯罪心理学)は「高齢者らの延命治療に長年疑問を持ち、安楽死への思いが増幅されていったようにうかがえる」と指摘。その上で「女性患者と知り合ったことでその思いがさらに強まり、希望に沿いたいというゆがんだ使命感と、逮捕されるリスクや恐怖心の間で揺れ動いていたようだ」と推測する。
その揺れが、なぜ事件へと振れたのか。捜査関係者によると、大久保被告はともに起訴された山本直樹被告(43)と昨年11月30日に女性宅を訪問する際、ヘルパーに姿を見られ、録画機能付きインターホンにも姿が映っていた。女性は当日に亡くなったが、殺害の発覚を免れようとした形跡はなく、主治医はすぐ事件性を疑い、警察に伝えていた。
新潟青陵大の碓井真史教授(社会心理学)はツイッターのフォロワー(登録者)が1万人を超えていた点に注目。「逮捕を免れようという強い意志が感じられない。SNSで賛同されて気が大きくなり、逮捕されても主張を貫きたいという思いに至ったのでは」とみる。
京都地検は、2人の認否を明らかにしていない。