山崎正和さん死去 86歳 劇作家、文化勲章受章 「柔らかい個人主義の誕生」

劇作家で、幅広いジャンルでの評論活動でも知られる文化勲章受章者で大阪大名誉教授の山崎正和(やまざき・まさかず)さんが19日、悪性中皮腫のため亡くなった。86歳だった。葬儀は近親者のみで営んだ。
1934年生まれ。演劇学を専門とし、京都大大学院博士課程修了。関西大教授、米国・コロンビア大客員教授、大阪大教授、東亜大学長などを歴任。新国立劇場運営財団理事やサントリー文化財団副理事長も務めた。2006年に文化功労者。07年から2年間、中央教育審議会会長。11年に日本芸術院会員。18年に文化勲章受章。
大学院生時代から戯曲の創作を始め、63年に「世阿弥」で岸田国士(くにお)戯曲賞受賞。その後も「実朝出帆」「野望と夏草」「オイディプス昇天」などの作品を発表した。
透徹した思考と深い学識、広い視野からの評論は定評があり、分野は劇、小説、詩のほか、政治や社会、文明にまで及んだ。73年に読売文学賞を受賞した「外 闘う家長」や76年「不機嫌の時代」では、自我の確立を目指した近代日本文学者の苦悩に迫った。75年には「病みあがりのアメリカ」で毎日出版文化賞。脱産業化社会と情報化社会の到来を見据えた84年「柔らかい個人主義の誕生」は当時の消費文化論に火をつけ、吉野作造賞を受賞した。著書・論文は、高校の国語の教科書や大学入試の問題にしばしば使われた。
政界との関わりも深かった。政治学者の高坂正尭らとともに佐藤栄作政権のブレーンを務め、現実主義に立つリベラルな保守派の論客として活躍。小渕恵三首相(当時)の私的諮問機関「21世紀日本の構想」懇談会や、小泉純一郎首相(同)の諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」などの有識者会議に名を連ねた。
14年にサントリー文化財団副理事長を退任後、15~17年に「『知』の試み研究会」(通称・山崎塾)を主宰し、若手研究者の支援にも尽力。最近まで療養しながら評論活動を続けていた。
昭和から平成期の「知の巨人」
山崎さんのオーラルヒストリーを手がけた御厨貴・東大名誉教授(政治史)の話 大学や既存の研究機関と異なる「文化財団」という組織を通じ、幅広い分野の学者たちと純粋な学問的議論を戦わせ、若い世代を育成した功績は極めて大きい。公平な人格で、常に好奇心を全身からあふれさせていた。自らも文学、哲学から歴史、政治、社会まで多彩な評論活動を行い、書評や時評も最後まで書き続けた。昭和から平成期の「知の巨人」だ。こういう人は今後出ないだろう。
不思議な立ち位置の人
「今週の本棚」顧問で、作家の池澤夏樹氏の話 不思議な立ち位置の人だった。表は劇作家だが、文芸評論、社会批評、文明批評の仕事も目立っていた。「外 闘う家長」「不機嫌の時代」など、犀利(さいり)な分析をし、何でも書けてしまう。政治的には保守ではないが、文化的保守である、ともおっしゃっていた。故丸谷才一さんとの対談では談論風発、話が止まらないほど両者博学だった。いつお会いしても何か新しいことを勉強している、知識人の典型のような人だった。