羨望から憎しみへ…ミルクボーイの先輩はネットストーカーに変貌した

華やかな芸能界で躍動していたのは中学時代の後輩だった。人気お笑いコンビ「ミルクボーイ」の駒場孝さん(34)をSNSで脅迫したとして強要未遂罪に問われた東京都の無職男(36)の公判が今夏、大阪地裁で開かれた。一方的な要求や暴言は約1カ月半で100回以上に及び、駒場さんは「不快で恐ろしかった」。祝福と羨望、そして抑えられぬ憎悪。いつしか男は「ネットストーカー」に変貌していた。(杉侑里香、土屋宏剛)
ブロックされても
「会いたい」「返信しろよ」「おまえのこと殺す」「無視するんじゃねえ」「《ハサミの画像》」
7月30日の初公判。検察官が淡々と読み上げる投稿内容を、被告人席に座った小柄な男は、うつむきがちに聞いていた。
中学時代、剣道部で駒場さんの先輩だった男。ただ、卒業後は、一度も連絡を取ることはなかった。
昨年12月末。若手漫才師ナンバーワンを決める「M-1グランプリ」で、ミルクボーイが優勝を果たした。この直後、男は駒場さんのインスタグラムを通じ、祝福のメッセージを送った。
古い知り合いからの突然の連絡だったが、駒場さんは律義に返信した。だが男はそれにとどまらず、「会いたい」「連絡がほしい」などのメッセージを繰り返し送信した。
多忙なこともあり放置していると、男は暴言や脅迫じみた言葉で返信を迫るようになった。接触を防ぐブロック機能を使っても、別のアカウントから同様の行為を繰り返したという。
やがてメッセージは、駒場さんやその家族に直接危害を加えることをにおわせる内容に。SNSで駒場さんに成りすまし、他の芸人に「死ね」と送るなどの行為もあった。
被害届が受理され、男が逮捕されるまでの約1カ月半のメッセージ総数は優に100件を超えていた。
「自分と比べて…」
男は大学卒業後、職を転々としていたが昨年12月に空港の清掃の仕事を解雇され、無職に。「かなり落ち込んでいて、部屋に閉じ籠もりがちで会話もなかった」。同居していた父親は公判で当時を語った。
ミルクボーイが令和初のM-1王者に輝いたのは、ちょうどその時期と重なる。父親によると、男は駒場さんの躍進を知り、珍しく喜ぶ様子を見せていた。
被告人質問で、当時の心境を問われた男は「最初は素直に(駒場さんの)活躍がうれしかったし、すごい、会いたいと思った」。
同時に剣道部の後輩にすぎなかった駒場さんに、羨望ともいえる感情が生まれていた。「就職がうまくいかない、友達もいない自分のふがいなさを比べてしまった」
精神的に追い込まれ自殺も考える中、駒場さんから2通目以降の返信が得られなかった。「裏切られた」。一方的な憎しみが募り、執拗(しつよう)な攻撃が続いた。
逮捕・起訴という事態に至って犯した罪の重大さを認識した男は、「自分勝手なことをした。申し訳なく思う」と述べ、謝罪文をしたためた。
だが駒場さんはこれを受け取らなかった。法廷では検察官を通じ、強い処罰感情をにじませた。「送られたメッセージは全て読んでいたが、とても不快で恐ろしかった。二度と連絡しないでほしい」
SNSのリスク
8月17日の判決公判。地裁の松本圭史裁判官は男に懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡した。反省の態度を認めつつも、「動機は極めて幼稚で自己中心的」「被害者の恐怖感や不快感は大きかった」と厳しく指弾した。
男は今後、二度と同様のことはせず、家族とコミュニケーションをとり、就職のための資格勉強を始めると公判で誓った。
男の犯行は、ネット上で特定の人物につきまとう「ネットストーカー」の典型ともいえるものだ。
ストーカー行為は、一般的に異性間で起きるものと考えられがちだが、「男女間だけでなく、あらゆる人間関係において発生する危険性がある」。ストーカー被害者や加害者のカウンセリングを行うNPO法人「ヒューマニティ」の小早川明子理事長が指摘する。
事件については、古い知人でもある有名人と仲良くなりたかったが、相手に無視されたことで「自己顕示欲が満たされず、怒りや憎しみを抱いた」と分析。近年はSNSを通じ、有名人と簡単につながれるようになったことから、一方的に送り付けられるコメント機能やメッセージで暴言や脅迫を繰り返すトラブルも増えているという。