指紋と同様に、足の皮膚にも人によって異なる紋様「足紋(そくもん)」がある。大阪府警が7月、少年3人を逮捕した強盗事件では、現場に残された足紋が容疑者の特定に大きな役割を果たした。指紋と比べ認知度が低く、はだしでなければ採取できないことから捜査に役立つ場面はまれだが、靴に守られている足裏の特徴を生かし、災害時の身元特定に活用しようと模索する動きも始まっている。(桑波田仰太)
はだしが証拠に
大阪府羽曳野市の路上で7月21日夕、男子高校生(16)が、折り畳みナイフを持った面識のない少年3人に取り囲まれた。3人は、男子高校生を近くのコンビニエンスストアに連れて行き、ATM(現金自動預払機)で引き出させた1万円を奪って逃走した。
通報を受けてコンビニの防犯カメラを調べていた捜査員は、ある場面に着目した。少年の1人がなぜか靴を脱ぎ、素足で店内を歩き回っていたのだ。
「足紋がとれる」。捜査員の読み通り、鑑識課員が床を調べると、大量の足紋が見つかった。
現場周辺の防犯カメラ映像などから、容疑者の絞り込みが進み、捜査対象となった1人の足紋を府警が把握していたことから、コンビニに残された約30の足紋と照合。一致したことを証拠の1つとして、府警は同月27日、強盗容疑で16歳の少年3人を逮捕した。
終生不変も出番少なく
足紋は主に足の指の付け根付近で採取し、指紋と同じく人によってそれぞれ特徴があり、「終生不変」でもある。
指紋に比べ認知度が低いのは、事件で活用される頻度が低いからだ。路上での事件はもちろん、屋内の事件でも、ほとんどの犯人は靴や靴下を着用している。このため、容疑者を逮捕しても足紋を採取していない警察本部もある。
それでも、重大事件で捜査の鍵を握ることがある。捜査関係者によると、平成23年8月に広島市中区で夫婦が殺害された事件では、直後に血の付いた足紋を広島県警が採取。約3カ月後、20代の男が逮捕されたが、男は4年前にも別の強盗事件で逮捕されていたことが判明した。ただ、県警は前回の逮捕時に足紋を取っておらず、有力な証拠を捜査に生かすことはできなかった。
大阪府警では昭和40年代から採取を継続し、延べ約32万人分を保管している。採取の契機となったのは、未解決事件の現場に足紋が残っていたことだった。
指紋のような検索システムは構築されておらず、手作業で鑑定する必要があるなど、出番が少ないゆえの課題もあるが、ある府警幹部は「今回のように防犯カメラ映像とうまく結びつければ、容疑者の特定に大きな役割を果たすことができる」と強調する。
身元特定の切り札に
事件では存在感が薄いが、大規模な自然災害が相次ぐ中で、新たな身元確認方法として活用する動きが出ている。
退職した警察官や大学教授などが所属する「全国足紋普及協会」(東京)によると、足の裏は指より皮膚が硬い。事件現場では靴の存在が障壁となるが、身元確認では、遺体が傷ついていても形状が残りやすいという利点に変わる。
プライバシー保護でのメリットもある。指紋はスマートフォンなどの生体認証に使われることが増え、情報が流出すれば影響が大きいが、足紋はその懸念は少ない。
同協会は数年前から全国で講習会を開き、一般市民に自身の足紋を正確に採取し、保管しておく方法を指導している。同協会の理事で元警視庁捜査1課長の光真(みつざね)章氏は「行方不明になった高齢者の確認などにも活用できる。自分のことを証明するための万が一の備えとして、有効な手段になる」と話している。