台風シーズンの水害対策 「ダムの運用変更」その効果は?

この8月12日、菅義偉官房長官は群馬県の須田貝ダムを視察し、その後の会見で日本のダムの運用変更についてこう語った。 「縦割りの弊害を除去し、こうしたダムの水量を洪水対策に使えるように見直しを行なった。50年5000億円かけて新設された八ッ場ダムの約50個分の洪水対策の水量を確保できた」 菅氏が、官邸での定例会見ではなく、こうした場を訪れて会見をするというのは少々珍しい。しかも、内容はダムの運用で、「いったい何事か?」という印象を受ける。菅氏が語った「ダムの運用変更」とは以下のようなものだ。 昨年10月の台風19号による甚大な被害を受けて、政府はダムの運用の見直しに取り組んできた。日本には、治水ダムと治水目的を含む多目的ダムが約570か所、発電用や農業用水用、工業用水用の発電ダム・利水ダムが約900か所あるが、これまで発電ダム・利水ダムは台風などの洪水対策に利用されてこなかった。そこで、ダムの管理者と治水協定を結び、豪雨発生が予想される際に発電ダム・利水ダムでも事前放流をして洪水対策に利用するようにした──。 これにより、全国で水害対策に使える貯水量は46億立方メートルから91億立方メートルへと倍増したという。増加分は、台風19号で“利根川の決壊を防いだ可能性がある”とされる八ッ場ダム約50個分に相当するといい、協定を結ぶだけでこれほどの貯水量を確保できたというのはまるで錬金術である。 しかし、そもそもそんなに簡単にできるなら、なぜ今までやらなかったのか。 「台風19号」の被害があまりに甚大だった 治水ダムは国交省、発電ダムや利水ダムは経産省や農水省、厚労省の管轄で、メディアは“行政の縦割り”が原因と報じているが、元国交省河川局長で日本水フォーラム代表理事の竹村公太郎氏は「それほど単純な理由ではない」と指摘する。 「縦割りの弊害という面があるのは事実ですが、たとえば、発電ダムは電力会社が、農業用水用のダムは地元の農業者らが費用を出して建設したものです。国から補助金は出ていますが、基本的に事業者が自費でつくっているので、管轄が経産省や農水省だからといって、国が自由に運用を変えられるわけではありません」 国が独自に決められるわけではないうえに、そもそも治水ダムと発電ダム・利水ダムでは、運用方法も異なる。 治水ダムは豪雨による増水に備えて空(から)に近い状態にしておくのが基本だが、利水ダムは水不足に備えて、発電ダムは落差を利用して発電するので、どちらも水をたっぷり貯めておくのが基本で、まったく逆の運用の仕方になるという。
この8月12日、菅義偉官房長官は群馬県の須田貝ダムを視察し、その後の会見で日本のダムの運用変更についてこう語った。
「縦割りの弊害を除去し、こうしたダムの水量を洪水対策に使えるように見直しを行なった。50年5000億円かけて新設された八ッ場ダムの約50個分の洪水対策の水量を確保できた」
菅氏が、官邸での定例会見ではなく、こうした場を訪れて会見をするというのは少々珍しい。しかも、内容はダムの運用で、「いったい何事か?」という印象を受ける。菅氏が語った「ダムの運用変更」とは以下のようなものだ。
昨年10月の台風19号による甚大な被害を受けて、政府はダムの運用の見直しに取り組んできた。日本には、治水ダムと治水目的を含む多目的ダムが約570か所、発電用や農業用水用、工業用水用の発電ダム・利水ダムが約900か所あるが、これまで発電ダム・利水ダムは台風などの洪水対策に利用されてこなかった。そこで、ダムの管理者と治水協定を結び、豪雨発生が予想される際に発電ダム・利水ダムでも事前放流をして洪水対策に利用するようにした──。
これにより、全国で水害対策に使える貯水量は46億立方メートルから91億立方メートルへと倍増したという。増加分は、台風19号で“利根川の決壊を防いだ可能性がある”とされる八ッ場ダム約50個分に相当するといい、協定を結ぶだけでこれほどの貯水量を確保できたというのはまるで錬金術である。
しかし、そもそもそんなに簡単にできるなら、なぜ今までやらなかったのか。
「台風19号」の被害があまりに甚大だった
治水ダムは国交省、発電ダムや利水ダムは経産省や農水省、厚労省の管轄で、メディアは“行政の縦割り”が原因と報じているが、元国交省河川局長で日本水フォーラム代表理事の竹村公太郎氏は「それほど単純な理由ではない」と指摘する。
「縦割りの弊害という面があるのは事実ですが、たとえば、発電ダムは電力会社が、農業用水用のダムは地元の農業者らが費用を出して建設したものです。国から補助金は出ていますが、基本的に事業者が自費でつくっているので、管轄が経産省や農水省だからといって、国が自由に運用を変えられるわけではありません」
国が独自に決められるわけではないうえに、そもそも治水ダムと発電ダム・利水ダムでは、運用方法も異なる。
治水ダムは豪雨による増水に備えて空(から)に近い状態にしておくのが基本だが、利水ダムは水不足に備えて、発電ダムは落差を利用して発電するので、どちらも水をたっぷり貯めておくのが基本で、まったく逆の運用の仕方になるという。