学校に行きたくない日は誰しもある。それが長く続いてしまう子供もいる。何が不登校の引き金となるのか。
大阪府八尾市の中学3年、大下歩さん(14)=仮名=の場合は、いじめと学校、先生への不信だ。
小学6年のとき、4年生だった妹が同級生の男児に暴力をふるわれて大けがをし、学校に行けなくなった。校長や先生が責任逃れの言葉を並べる姿に、大下さんは失望。「大人には裏表がある。誰も信じられなくなった」
中学に進むと、大下さん自身も同級生から髪にのりをつけられたり、よそよそしい態度を取られたりしたが、「先生はきっと助けてくれない」とあきらめた。
学校をやめたいと思いながら高校進学のために登校を続けたが、次第に学校に近づくと耐えがたい頭と胸の痛みに襲われるようになった。「行かなあかんのはわかってるのに…」。欠席や保健室登校が増えた。「学校に来る意味があるんかな」。保健室のベッドに横たわって天井を眺めながら、そんなことを考える。ついに2年生の夏休み明けから登校できなくなった。ちょうどその頃、地元にフリースクール「輝(かがやき)」が開設されたことを母親が耳にし、通うようになった。
ただ、3年生になると受験を意識せざるを得ず、学習面で不安が募る。コロナ禍の影響で学校が再開した6月、勇気を振り絞って登校したが、妹をいじめた男子生徒と鉢合わせしパニックに。また学校に行けなくなった。
今、高校合格を目指して「輝」で勉強を続けている。
好奇の目
愛知県の高校3年、早川美雪さん(18)=仮名=が、朝起きられなくなる起立性調節障害(OD)を発症したのは小学5年の春だった。当初は原因がわからず、起きられない自分にいらだち、不安でいっぱいに。午後から登校することもあったが、「教室に入るとクラスメートが一斉に私を見る好奇の目がつらく」て、視線を避けるためのマスクが手放せなくなった。
数カ月後にODと診断された。「病気なら学校に行けなくても仕方ない」と不登校が加速。「勉強は家でもできる。もう『小卒』でいい」とまで考えた。
その後、母親の勧めで不登校経験者向けの中学校に進学。同じようにつらい体験をしてきた仲間に囲まれ、「自分は特殊な存在じゃない。かつての自分を肯定できるようになった」。必要に応じてマスクも外せるようになった。
折れた心
北海道在住の高校3年、元木優さん(17)は幼い頃から自分の思いをうまく言葉にできなかった。小学校に入ると、たびたび休んだ。「子供の集団は無邪気にきついことを言う。居場所がないと感じていた」
朝、布団の中で体を丸めている元木さんを引きずってでも連れて行こうとする母親に反発。両親は腫れ物に触るように接してきた。
不登校を決定づけたのは中学1年の授業中のできごとだ。「もっとしっかり話せよ」。発言を求められた際にどもり、身がすくんだ瞬間、男子生徒にからかわれた。「教室が怖い。もう無理だ」。担任に相談したが聞き流された。「先生は助けてくれると思っていたのに」。中学校には通いたいと思っていた気持ちが、完全に消えた。
思い切って入学した北星学園余市(よいち)高校(北海道余市町)には休まず通う。不登校経験のある生徒が多く、自由な校風が性に合う。「やっと居場所を見つけた」とほほ笑んだ。
文部科学省の平成30年度調査によると、小中学生の不登校の要因として多いのは家庭状況や友人関係、学業の不振で、ほかにも進路や教職員との関係、いじめなどさまざまだ。言い換えれば不登校は誰にでも起こりうる可能性がある。そのとき周囲の対応によっては子供たちはさらに傷つき、学校不信、人間不信にも陥る。
大下さんを含め、多くの不登校の子供たちを見守ってきた「輝」の浦上弘明理事長は言う。「子供が安心できる場所であるべき学校に、手を差し伸べ、寄り添える大人が少なくなっているのではないか」
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起立性調節障害(OD) 自律神経の調節がうまくできず、体を活性化させて血圧を上げる交感神経と、体を休めて血圧を下げる副交感神経のバランスが崩れ、睡眠リズムや血圧などに影響を及ぼす病気。特徴的な症状はめまいや頭痛の他、朝の体調不良。思春期に多く、中高生の約1割が発症する。