島の伝統「幻の蜂蜜」守れ ニホンミツバチの“外敵”駆除大作戦 長崎・対馬

日本在来種のニホンミツバチが、長崎・対馬の四季折々の山野で吸った花の蜜を集めて作った「幻の蜂蜜」をご存じだろうか。濃厚な味が特長で「百科蜜」とも呼ばれ、島内で長年重宝されてきた。ところが近年、ニホンミツバチの生息を脅かす“外敵”が現れ、対馬市などが駆除に乗り出す騒ぎになっている。【今野悠貴】
くりぬいた丸太の表面に、1センチ強のニホンミツバチが密集してうごめく。「丸太ごとに味が違う。人間は蜂の環境を整えるだけなんです」。高木が茂る森林のそばに建つ自宅庭で、井上雅史さん(63)=対馬市峰町=はハチミツ作りの妙を明かした。
スギやケヤキなどの幹をチェーンソーでくりぬいた巣箱「蜂洞(はちどう)」で蜂に自由に営巣させ、毎年秋の採蜜時は蜂が冬を越せるだけの蜜を残すのがコツという。
生産者約70人でつくる県・対馬市ニホンミツバチ部会によると、対馬では6世紀ごろにはニホンミツバチの養蜂が始まったとされる。セイヨウミツバチより小さく、蜜の収穫量は少ないが、野生種ならではの複雑な味が特長。江戸時代には将軍家などへの進物(しんもつ)や朝鮮通信使へのおもてなしにも用いられたという。
ただ、島内で養蜂を専業にする人はおらず、蜂蜜の販売量は少ない。井上さんも漁業の合間に世話しており、「趣味で作って家族や知人で楽しんだら終わりです」と笑う。
女王蜂4万匹駆除に成功
長年にわたり対馬に恵みをもたらしてきたニホンミツバチに危機が訪れたのは2012年。繁殖力や攻撃性が強い特定外来生物「ツマアカスズメバチ」が国内で初めて対馬で確認されたためだ。ニホンミツバチも襲って食べるため、養蜂や生態系に影響が出るのでは、との懸念が広がった。
危機感を強めた環境省や市は16年、「駆除大作戦」と銘打ち、巣や営巣前の女王蜂の駆除に乗り出した。乳酸菌飲料を発酵させた「誘引剤」を入れたペットボトルを加工し、わなを木の枝に仕掛けて捕獲する仕組みだ。市民にも軒先などへの設置を呼びかけ、16年度からの4年間で約4万匹もの女王蜂の駆除に成功した。
ニホンミツバチをいかに後世に残していくかは喫緊の課題だ。市文化交流・自然共生課の担当者は「ニホンミツバチは対馬の豊かな自然を生み出してきた。市民の協力を得て、ツマアカスズメバチの駆除と伝統の蜂蜜を守りたい」と話す。