消えたブドウ、思わず天仰ぎ「やられた」…死角狙った「玄人」の計画的犯行か

ブドウの収穫期を迎えた山梨県内で、シャインマスカットなどの高級品種を狙った盗難が相次いでいる。収穫の前日に大量に盗まれたケースがある一方、売り物にならない熟す前の房が消えた畑もある。被害に遭った農家を取材すると、収穫方法に精通した「玄人」に加え、知識の乏しい素人もブドウを狙っている実態が浮き上がってくる。(高村真登)

9月17日午前5時半、南アルプス市の農家の男性(71)は、収穫に訪れた畑を見渡し、思わず天を仰いだ。「ああ、やられた」
約1000平方メートルの畑には約7000房のシャインマスカットが実る。この日は畑の中心近くの約400房(52万円相当)を収穫する予定で、前日のうちに遮光目的の袋を房から外しておいた。
畑の周りには人通りの多い道路や民家があり、過去に被害に遭ったことはない。しかし、盗まれた一角は外から見えにくく、ほぼ死角だった。400房の重さは約250キロで、1人で収穫すれば2時間はかかる。
南アルプス署に被害届を出した穴水さんは、「収穫に詳しい複数人による計画的な犯行としか思えない。1年間手塩にかけて育てたのに許せない」と憤る。

今年は甲州市などの有名産地だけでなく、南アルプス市でも被害が相次いでいる。JA南アルプス市によると、今月7日時点で報告された盗難は9件あり、被害額は約120万円で昨年の4倍に上るという。
消えたブドウはどこへ行くのか。JAを経由する場合は検査を通すため、盗品と気づかれる可能性が高い。そのため、販売方法は路上販売や郵送とみられている。
同JAの手塚英男次長は「今年は長雨もあって不作の農家が多い。価格が上がって盗難が増えることを危惧したが、予想以上だ」と肩を落とす。
例年の収穫時期は8月下旬~10月下旬だが、9件のうち4件は8月19日以前に起きた。実が熟し切る前で糖度も低く、売り物にならないレベルという。

8月19日に南アルプス市の男性(72)の畑から盗まれたシャインマスカット約350房も糖度は低かった。出荷規定は糖度18だが、この時点では14~15。男性は「食べてもおいしくない。盗んでどうするのか」と首をかしげる。
盗まれた房の枝を見ると、切り口がどれもつぶれていた。農家であれば切れ味の良い専用のはさみを使うため、きれいな切り口になるはずという。その前日には隣の畑でピオーネ約40房が盗まれ、現場にはキッチンばさみが落ちていた。
JAの関係者は「農家ならキッチンばさみで切ろうとは思わない。食べ頃も知らない素人が盗みに使って捨てたものだろう」とあきれたように話す。
山梨県警南アルプス署は、ブドウ盗難の特別警戒班を設置しており、昼夜問わずパトロールして警戒を強めている。