「道路は危険」避難所行かず集落で共助 秩父・大滝地区「身近で待機」検討へ 埼玉

2019年10月の台風19号接近から12日で1年。埼玉県秩父市大滝地区(旧大滝村)では当時、県全体の面積の10分の1近くを占める広大な範囲に一つだけ市から指定された避難所に通じる道路が、土砂流出などにより各所で通行不能になった。集落にとどまり「共助」で被災を免れようとした住民は少なくない。危険な道を通るよりも身近な場所での避難を望む住民の声が高まり、市側もこれに応える方向にかじを切った。【山田研】
9月28日、大滝地区の町会の理事会が開かれた。地区に20ある区(集落)の区長と、市大滝総合支所の職員が参加。区長側は避難場所の見直しを求めた。
市が避難勧告などの発令前に開設する大滝地区の「自主避難所」は大滝総合支所庁舎で、地区住民(20年10月1日現在、631人)の避難先に定められている。台風19号では10月12日午前7時に開設され、79人が避難した(観光客2人を含む)。過去の開設時は1桁の人数だったといい、大幅に増えたものの、利用しない住民が大半だった。各集落からの道が不通になっていたり、避難中の被災を恐れたりしたからだ。
理事会に出席した巣場区長の木村賢一さん(65)も避難しなかった一人だ。巣場集落は、大滝地区の中では荒川の下流に位置し、同市荒川地区(旧荒川村)に近い。住民は6世帯13人。木村さんが男性の最年少になるほど高齢化が進む。
台風の日の午前10時ごろから各戸を訪ね、早めの避難を呼びかけた。巣場集落から大滝総合支所へは約8キロ。荒川の橋を渡って対岸の強石(こわいし)集落に出て、さらに川沿いに走る国道140号を上流側に向かわなければならない。
木村さんに「避難するときは一緒に」と頼んだ女性がいた。車を持たない独居の80代。市は運転できない人の避難を「共助で」としている。
やがて、強石集落の上流側で土砂崩落があり、国道が埋まった。支所から「避難するなら荒川総合支所に」と伝えられたが、同支所では周囲の避難者も職員も知らない人。「ストレスを感じるのでないか」と思った。
雨はさらに強まり、荒川地区へ行く国道の下流側も損壊。もう一つのルートである市道も、あふれた沢水が路肩を削った。木村さんは住民の意向を再確認したが、避難希望者はおらず、集落は全員が自宅で翌朝を迎えた。
全住民が避難しなかったのは、荒川の支流の最上流部にある中津川集落も同じだ。約20キロ離れた大滝総合支所をはじめ、外部に通じる「生命線」の県道は台風から約1カ月間通行止めになった。
「一番怖いのは(道路下を横切る)何本もある沢筋。大雨が降り始めたら集落内の安全な所で待機する方がいい」。この地で生まれ育った元小学校教諭、山中寛二郎さん(82)は強調する。あの日、自身と妻は自宅で過ごしたが、集落の中津川区集会所に避難した住民が数人いたという。
9月の町会理事会で、区長側は「各集落に強固な建物があれば、そこへの避難も必要でないか」と問題提起した。国が管理するダムの事務所など具体的な候補も挙がった。これに対し支所側は「住民と施設管理者が協定を結ぶのであれば仲介したい」と答えた。
総合支所の高橋亙(わたる)副支所長は「安全第一、人命第一」と、避難先の選択肢拡大に応じた理由を説明する。今後、各区で具体的な避難場所や避難経路などを検討し、支所側に伝えることになった。
しかし、大滝地区では同じ集落内でさえ危険な場所を通らざるをえない人家もある。共助中に被災しかねなかった事例も指摘されている。ある集落では民生委員が高齢者を自分の車に乗せて避難させたという。巣場区長の木村さんは「もし避難中に災害に巻き込まれたら、責任はどうなるのか」と疑問を抱く。
高橋副支所長は「市として共助による避難のフォローはできていない。だから区長や民生委員に、ぜひ連れてきて、とは言えない」と話す。自助・共助と公助のあり方について、検討すべき課題は残る。
2019年10月12日秩父市の主な経過
4:06 大雨・洪水警報
7:00 土砂災害警戒情報
大滝総合支所などに自主避難所開設
7:16 警戒レベル3(避難準備・高齢者等避難開始)
10:10 警戒レベル4(避難勧告)
11:30 大滝地区全域を含む国道140号通行止め
12:05 暴風雨警報
15:14 警戒レベル4(避難指示)
15:30 大雨特別警報
15:34 警戒レベル5(災害発生情報)