厚生労働省は21日、新型コロナウイルスの感染が広がった今年5~7月の妊娠届の件数が20万4482件だったと発表した。前年同期比11・4%減で、政府の緊急事態宣言の発令が続いた5月は同17・1%とマイナス幅が最大だった。感染を恐れ、届け出るのが遅れたり、妊娠するのを避けたりしたためとみられる。5月以降に妊娠届を提出した人の多くは来年出産するため、86万人と過去最低だった2019年の出生数を来年は大きく下回り、少子化が加速する可能性もある。
妊娠届は妊娠した本人が医療機関の診断書などを添えて自治体に提出する。法的義務はないが、母子手帳の交付や妊婦健診など母子保健サービスを受けるために必要で、毎年9割以上の妊婦が提出する。厚労省は妊娠11週までの間に出すよう勧めている。
厚労省は、新型コロナウイルスの感染拡大による妊娠行動や出生数などへの影響を調査するため、18年1月から20年7月までの妊娠届の提出状況について全国の自治体に照会した。20年1~7月の累計の届け出数は51万3850件で、前年同期比5・1%減。5月以降の減少幅が大きく、5月は6万7919件(前年同月比17・1%減)▽6月は6万7115件(同5・4%減)▽7月は6万9448件(同10・9%減)――だった。
マイナス幅が最大だった5月の届け出減少率を都道府県別にみると、青森県(同23・7%減)▽石川県(同22・5%減)▽岐阜県と香川県(同22・0%減)――など人口減少地域の減り幅が目立った。感染が拡大した東京都は同19・0%、大阪府は同17・2%の減少だった。
5月以降の妊娠届の大幅減について、厚労省の担当者は「外出自粛や医療機関の受診控えの影響で、届け出るのが遅れているのかもしれない。また、感染拡大や経済低迷を受けて、妊娠行動を避ける動きが広がっている可能性もある」と話している。
少子化は国の予測を超えるペースで進んでおり、19年の出生数は86万5239人と、過去最少を更新。今年の少子化社会対策白書では「86万ショック」と表現された。厚労省の人口動態統計によると、20年1~8月の出生数(速報値)は58万3218人。前年同期比で1万3953人減っており、少子化に歯止めがかかっていない。【中川聡子、阿部亮介】
長期的には解消される可能性も
鬼頭宏・静岡県立大学長(歴史人口学)の話 新型コロナの流行で仕事が不安定になったり、妊娠期間中に感染したくなかったりという懸念材料が大きく影響したのではないか。一般に感染症がはやる時は、短期的に子どもを作る意欲が減退する傾向がある。ただ、長期的には延期された出生を取り戻す行動がしばしば起きるため、21年後半や22年にコロナによる影響については解消されている可能性がある。
原因はコロナだけでない
松田茂樹・中京大現代社会学部教授(家族社会学)の話 新型コロナが妊娠するのを抑制したという影響は否定しないが、出生数が減少傾向にあるのは以前からで、全てをコロナによるものと判断するのは難しい。子どもを絶対ほしいという人は、2009年から19年にかけて大きく減少した。例えば、子どもがいない既婚男性を調べた結果、42%から27%に減っている。晩婚化の影響などもあるのだろう。新型コロナの影響であれば一過性に過ぎないが、少子化対策は引き続き必要だ。
感染リスク、収入減も妊娠をためらう要因に
産婦人科医の北村邦夫・日本家族計画協会理事長の話 新型コロナの影響に伴う自粛生活のために結婚式ができない、結婚の届けを先延ばししたという声を聞く。婚外子がいまだなじまない日本では結婚が減り、妊娠も減少した可能性はないだろうか。妊娠した場合に胎児や生まれた子への新型コロナの影響や、妊婦が感染した場合のリスクなどに不安を感じているようだ。収入減少に伴う家計への影響なども妊娠をためらう要因になっている。若者の性行動にどのような変化があったか調査したい。
不妊治療が抑制された影響も
年間約3000件の出産がある愛育病院(東京都港区)の安達知子院長の話 5~7月に妊娠届を出した女性の出産が推測できる来年1~3月は例年に比べて予約が減っている。新型コロナの感染や影響を怖がったり、経済的に余裕がなくなったりして妊娠を控えたのではないか。16人に1人が体外受精で生まれている現状で、不妊治療が抑制された影響もある。日本の実態を調査し、相談窓口の設置など、安心して出産、子育てができる環境を作っていく必要がある。