「大阪都構想」を巡る主要な争点の一つが「二重行政の解消」だ。推進派は過去に失敗した大規模開発を例に、大阪市廃止後に再編される特別区と大阪府の役割を明確化した制度による無駄の排除を主張する。対する反対派は二重行政は首長同士の話し合いで解消は可能だと訴え、専門家からは推進派の財政効果に疑問の声も上がる。
大阪維新の会は2011年以降、知事と市長のポストを独占。府市一体による政策の推進を「バーチャル大阪都」と呼び、府立大と市立大の運営法人や港湾部局の統合などを成功例に挙げる。ただ、この成果は維新創始者で知事・市長を務めた橋下徹氏や松井一郎市長(維新代表)、吉村洋文知事(維新代表代行)の連携によるもので、二重行政の解消には制度的な担保が必要だと繰り返す。府市は12~20年度に二重行政の解消を中心に1994億円の財政効果があったとの試算をアピールしている。
超高層ビルは「府市合わせ(不幸せ)の象徴」
推進派が二重行政の悪弊として挙げるのが、府市が1990年代半ばに競うように巨額の予算を投じて建設した二つの超高層ビルだ。市が1193億円をつぎ込んだ住之江区の「WTCビル」(高さ256メートル、現在は大阪府咲洲(さきしま)庁舎)と、府が659億円を費やして10センチだけ高い大阪府泉佐野市の「りんくうゲートタワービル」(同256・1メートル)。いずれも利用者の低迷で破綻しており、府市の足並みがそろわない「府市合わせ(不幸せ)の象徴」とする。
松井市長は住民投票が告示された12日の街頭演説で、「人による脆弱(ぜいじゃく)なものではなくて未来永劫(えいごう)、無駄なお金を使わないようにするのが都構想の目的だ」と強調。都構想が実現すれば制度上、府が大規模開発を一手に担うことになり行政の効率化が可能になると訴えた。公明党も「二重行政の解消で財源が生まれ、住民サービスを充実できる」と訴える。
一方、反対派は過去の開発について「二重行政とは無関係だ」(自民党の川嶋広稔・大阪市議)と反論する。WTCは大阪市のベイエリアの中核として、隣接するATC(アジア太平洋トレードセンター)と国際交易を担う中心施設となる構想だった。りんくうゲートタワービルは、94年に開港した関西国際空港の対岸に位置する「りんくうタウン」の商業ゾーンの中核施設の位置付けで、開発の目的が異なるというわけだ。
川嶋市議は「都構想は市の権限や財源を府に無理やり持っていって解決しようとしているだけ。市に事務を任せれば解消できる」と批判。立命館大の森裕之教授(地方財政)は「両ビルの破綻はバブル経済の崩壊や甘い収支予測が原因。用途も建設地域も違い、それぞれの自治体による政策の失敗と見るべきだ」と話す。
純粋な財政効果は数億円との試算も
森教授は財政効果額の試算に市営地下鉄(大阪メトロ)の民営化(905億円)やごみ(一般廃棄物)の収集輸送効率化(255億円)などが含まれている点に触れ、「大半は二重行政の解消と無関係なものを含めており、類似業務を整理した純粋な効果は数億円程度だ」と指摘した。
経済界からも都構想による二重行政の解消に疑問の声が出ている。大阪商工会議所の西村貞一副会頭(サクラクレパス会長)は16日の記者会見で、「4人の区長が生まれれば、知事との『五重行政』になるのではないか。全部同じ考え方の人がトップになるとも限らない」と慎重な議論を期待した。【芝村侑美、村松洋、宇都宮裕一】