いまだに新型コロナウイルスは終息を見せない。朝日新聞には、この問題を強引に戦争やファシズムに結び付けて、日本を貶めるように感じる言論を多数載せてきたが、典型的な事例を紹介する。
8月10日朝刊の「文化の扉」に、「『特攻』生んだ思想とは」と題する、戦争中に特別攻撃という戦法を誕生させた、日本人の精神的背景を論じた、太田啓之記者による記事がある。この記事には、作家・演出家である、鴻上尚史氏のコメントがつけられている。
それは、「特攻には、開始前から有効性を疑問視する声がありました。それでも『日本を守るには特攻しかない』という空気ができると、強烈な同調圧力が生じ、逆らうと猛烈な叱責やいじめを受けた」と始まり、次いで、「非常事態宣言や自粛がコロナ禍にどこまで有効か分からないのに、営業を続ける店がSNSでバッシングされるのと同じ。日本型組織や社会は、昔も今も『構成員一人ひとりの命や生きがい、幸せを消費して存続する』という凶暴な面があります」と説く。
戦争中の特攻はともかく、現在のコロナ禍の状況において、日本人はそんな異常な精神状態になっているのだろうか。しかも、「日本型組織や社会」の特徴とするのは、とんでもない偏見と思わざるを得ない。
この日本人に対する偏見・差別をさらに強烈に表現したのが、6月9日朝刊の教育欄に掲載された、田野大輔・甲南大学文学部教授による、「『自粛警察』まるでファシズム」と題する一文である。
まず、「新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出た時、日本では、政府の『自粛』要請に従っていないように見える人を糾弾する人たちが現れました」とし、次いで、「政府という大きな権威に従うことで、自らも小さな権力者となり、存分に力をふるうことに魅力を感じていたのです。『権威への服従』がもたらす暴力の過激化といえるでしょう」と続き、さらに、「こうした権威への服従と異端者の排除を通じた共同体形成の仕組みのことを、私はファシズムと呼んでいます。『自警団』的な行動は、ファシズムの根本的な特徴を体現しています」と述べる。
これほど的外れな議論もないだろう。日本に自粛警察的な動きがあったとしても、それは極めて些細(ささい)な問題で、外国にははるかに深刻な事例がいくらでもあることは、メディアの報道からも明らかである。そもそも、外国では、権力が直接的に強力に取り締まっていた。
要するに、鴻上氏にしても田野氏にしても、良心的人間を装って、日本人をバッシングすることに、無上の喜びを感じているように感じる。私が以前から指摘している、「虐日日本人」の典型であろう。こういう言論こそ、ファシズムに他ならない。
■酒井信彦(さかい・のぶひこ) 元東京大学教授。1943年、神奈川県生まれ。70年3月、東大大学院人文科学研究科修士課程修了。同年4月、東大史料編纂所に勤務し、「大日本史料」(11編・10編)の編纂に従事する一方、アジアの民族問題などを中心に研究する。2006年3月、定年退職。現在、新聞や月刊誌で記事やコラムを執筆する。著書に『虐日偽善に狂う朝日新聞』(日新報道)など。