福岡県太宰府市で2019年10月、主婦の高畑(こうはた)瑠美さん(当時36歳)が遺体で見つかった事件で、佐賀県警が、事件前に高畑さんの身を案じた同県基山町の家族から10回以上相談を受けながらも被害届を受理していなかったことが、捜査関係者への取材で判明した。事件では男女3人が傷害致死などの罪で起訴された。家族は高畑さんの身に危険が及ぶと訴えたが、捜査が始まらないまま高畑さんは激しい暴行を受けて死亡した。
高畑さんの遺体は19年10月20日朝、太宰府市のインターネットカフェの駐車場に止められた車内で見つかった。福岡県警は翌21日、車に同乗していた3人を死体遺棄容疑で逮捕した。その後、福岡地検は3人のうちいずれも同市の無職、山本美幸(41)、岸颯(つばさ)(25)両被告を死体遺棄や傷害致死などの罪で起訴。山本被告の知人で同県筑後市の運送会社員、田中政樹被告(47)も死体遺棄などの容疑で逮捕、起訴された。
起訴状によると、山本、岸両被告は共謀し、19年9月下旬~10月20日ごろ、太宰府市の自宅などで高畑さんの太ももをバタフライナイフや割り箸で刺し、木刀で多数回殴るなどし、外傷性ショックで死亡させたとされる。田中被告は遺体の遺棄に協力したとされる。
田中被告の公判によると、山本被告は、元暴力団員の田中被告とともに高畑さんの兄が作った借金の返済名目で、09年ごろから高畑さんの夫に多額の現金を支払わせていた。19年3月ごろからは高畑さんを福岡市内のホストクラブに連れて行くようになり、その代金として高畑さんに金の支払いを要求し、親族らに借金させていた。
高畑さんは19年8月末ごろ、基山町の自宅を離れ、山本、岸両被告と同居を開始。捜査関係者によると、執拗に金を無心する高畑さんを心配した家族が佐賀県警鳥栖署に相談し、背後に山本被告らがいることも訴えた。さらに、高畑さんの夫は山本被告らから多額の金を支払うよう脅迫まがいの電話を何度も受け、支払わなければ高畑さんの身に危険が及ぶと危惧し、鳥栖署に相談を重ねていた。
佐賀県警の鈴木知広警務部長は23日の定例記者会見で「ご遺族に心からお悔やみ申し上げる。現在事実確認をしており、現段階でのコメントは差し控えたい。一定のめどが立った段階で回答したい」と述べた。【宗岡敬介、山口響】