大阪市を廃止し、特別区を設置する「大阪都構想」の賛否を問う住民投票(11月1日投開票)を巡り、新型コロナウイルスの影響で介護施設の入居者が外出しないよう要請され、投票できないケースがあることが、市選挙管理委員会への取材で明らかになった。小規模施設では不在者投票も認められず、入居者は行政の準備不足ではと憤る。一方で、高齢者は感染すると重症化リスクが高く、施設側は感染対策と選挙権尊重の両立に苦慮している。
「投票できないとは考えもしなかった。権利を奪われるのはあり得ない」。大阪市南部の小規模多機能ホームに入居する男性(87)は投票を一度も欠かしたことがなく、施設の要請で期日前も含め、投票できない現状に憤る。要請には一定の理解を示しているが、「コロナ禍の状況で住民投票をするなら、もっと対策を考えてほしかった」と市に不満を募らせる。
1人暮らしをしていた男性は、心臓疾患などで入院したのを機に4月に入居した。施設の担当者は「基礎疾患のある高齢者が不特定多数が訪れる場所に投票に行くのは厳しいと判断した。投票したい気持ちに寄り添うべきだが、どう対応すべきか正直分からない」と打ち明ける。
「選挙権が優先」「郵便投票の条件緩和を」
大阪府選管の指定を受けた病院や高齢者施設に入院や入居する有権者は不在者投票が可能だ。ただ、市内の指定施設は約260カ所。府選管は投票事務を担う職員を確保できれば認めているが、スタッフの少ない小規模施設の指定は難しいという。
郵便投票は下半身に重度の障害がある人や「要介護5」の人らに限られる。車で巡回する移動投票所を導入する自治体もあるが、市選管は「大阪市は人口が多く、二重投票を防ぐ対策などが難しい」と説明する。
市内には入居や宿泊ができる介護施設が1117件(10月1日現在)あり、小規模も増えている。市選管には同様の問い合わせが数件あったというが、「投票所では感染対策を施しており、期日前投票などを利用してほしい」と理解を求めているという。
介護問題に詳しい結城康博・淑徳大教授(社会福祉学)は「施設側は新型コロナ対策に過敏になりすぎている。選挙権が優先されるべきで、投票に行けるように配慮する責任がある」と指摘した。
高齢者の投票率低下について調査している松本正生・埼玉大教授(政治意識論)は「足腰が悪いなどの理由で投票に行きたくても行けない高齢者が増えている。投票率が下がる中で選挙制度を機能させるために、郵便投票の条件緩和を検討すべきだ」と話した。【野田樹】