自宅で介護していた母親に布団をかぶせ、窒息死させたとして傷害致死罪に問われた福島県南相馬市原町区、無職、愛原正人被告(47)の裁判員裁判で、福島地裁(柴田雅司裁判長)は16日、「経緯や犯行動機は身勝手なものだが、暴行の様態は比較的軽度」などとして懲役3年、執行猶予4年(求刑・懲役3年)の判決を言い渡した。【磯貝映奈】
判決で柴田裁判長は「おむつ交換をする際に母の泣き声を聞きたくなく、近隣住民に聞かれたくないとも思い、母が苦しい思いをすることを考えていなかった」と指摘。「介護サービスの利用など、他の適切な対応も十分にあり得た」などとした。一方で、長年にわたって1人で介護してきたことや、遺族が処罰を望んでいないことを、執行猶予付き判決の理由とした。
判決などによると、愛原被告は、4月2日午後3時20分ごろ、同市原町区の自宅で、自分では身動きできない母隆子さん(当時70歳)のおむつを交換する際、泣き叫ぶ隆子さんの顔に折りたたんだ布団をかぶせ、窒息死させたとしている。
涙で「世話をしながら 母の味方になれなかった」10年以上誰も頼らず
介護をしていた母を窒息死させたとして執行猶予付き判決を受けた愛原正人被告(47)。福島地裁の公判を通して孤独な介護状況や、家庭内介護の難しさといった問題が見えてきた。
愛原被告は母の面倒を見るために31歳で実家へ戻り、父が亡くなってからは10年以上、母と2人暮らし。その間1人で介護を続けてきたという。2019年10月から母は寝たきりになり、短時間のアルバイトをしながら、食事や排せつなど身の回りの世話を全てこなしていた。
公判では、地域包括支援センターの職員が愛原被告の自宅を訪れたり、近隣住民からも心配されたりしていたが、親族を含めて誰にも介護の相談はしていなかったことが明らかになった。その理由について愛原被告は、何度も「一人でやれている。何とかなっているからと思っていた」と答えた。介護施設への入所やデイサービスの利用もいずれは必要だと考えていたが、先延ばしにしていたという。親族に助けを求めることも考えたが「父親の入院時にほとんど何もしなかったので、自分が困った時だけ助けを求めるのが後ろめたかった」と話した。
12日にあった最終陳述で愛原被告は「世話をしていながら、母の味方になれていなかった。布団をかぶせることを思いついた時、ほっとしている自分がいた」と悔やんだ。そして「他の人に相談していたらこうはならなかった。母に申し訳ない。二度とこういうことが起こらないようになってほしい」と涙ながらに訴えた。
県高齢福祉課によると、県内で介護が必要だと認定された高齢者は約11万2500人。このうち1人暮らしや家族に介護されている人は約1万6670人いる。愛原被告の自宅近くにある南相馬市原町東包括支援センターの職員は「センターはあくまでも相談を受けて個々にあった解決方法を提案する窓口。最終的にどうするかは本人に決めてもらうしかないのが難しいところ」と説明する。実態調査として高齢者のいる家庭を訪問するが、愛原被告のように断られてしまうと職員はそれ以上介入できない。「介護者の中には、責任感が強く、誰かに頼ることが苦手な人もいる。特に家族の話は他人に言いにくい。近くに頼れる人がいない場合は、抱え込まずに相談してほしい」と話した。【磯貝映奈】