仮面ライダーがいるらしい。しかも2人。
長崎県佐世保市の周辺で、そんな都市伝説のような目撃情報が飛び交っている。ネット上には赤いマフラーをなびかせ、愛用バイク「サイクロン号」で街を駆け抜ける写真もある。悪の秘密結社「ショッカー」が現れたという話は聞かないが、仮面ライダーは何と戦っているのだろう。2人の仮面ライダーとは、1970年代にちびっ子たちを熱狂させた元祖の「1号」と「2号」なのか?
やっとのことで会えた仮面ライダー2人。果たしてその正体は「子供を虐待から守ろう!」と呼びかける心優しき男たちだった。とはいえ、ヒーローが身元を明かすわけにはいかない。2人は佐世保市在住の会社経営者と同県松浦市在住の会社員でどちらも50代。ここでは「1号さん」「2号さん」と呼ぶ。
2人はまだ出会っていなかった4年ほど前、仮装イベントに参加したのをきっかけに仮装で人を喜ばせる面白さにハマった。最初は洋画の登場人物に扮(ふん)していたが、最終的に知名度や自身のヒーロー像から仮面ライダーに“変身”。やがて運命の出会いを果たし、会社経営者が1号さん、会社員が2号さんになった。
仮面ライダーの人気は絶大だ。バイクで街を走れば、子供が車の中から窓を開けて大喜びで手を振ってくる。車を止めて「写真を撮らせてください」と駆け寄ってくる大人もいる。
2号さんには複雑な事情でふさぎ込みがちな同僚がいる。ところがある日、その彼が満面の笑みで他の社員に話していた。「昨日、街で仮面ライダーを見た! 久しぶりに大笑いした」。2号さんがライダーであることを彼は知らない。2号さんは改めて仮面ライダーの持つ魅力、人を喜ばせる力を思い知った。
だからこそ、まかり間違ってもヒーローが交通違反で捕まる姿を見せるわけにはいかない。2人は仮面ライダーを始めて一層、交通ルールに厳格になった。仮面ライダーの仮面はバイク用ヘルメットをベースに少しでも本物に近づけようと、1号さんが心血注いで改良を重ねた逸品だ。
行く先々で人気を集める仮面ライダーだが、それだけに、1号さんは子供が亡くなる虐待のニュースを聞くと胸が張り裂けそうになる。「死なせるぐらいなら、うちに連れてくれば何とかするのに……」。佐世保市では2004年に小6の女子児童が、14年には高1の女子生徒が同級生に殺害される事件もあった。1号さんは当時のショックがまだ癒えていない。
そんな時、たまたま子供の虐待防止に取り組むオレンジリボン運動を知った。「仮面ライダーの注目度で役に立てるのでは」。すぐに運動の個人サポーターに登録し、賛同した2号さんも後に続いた。
それ以降、2人が仮面ライダーになる時は必ず運動の象徴・オレンジリボンマークが入った腕章を巻く。イベントに呼ばれた時はオレンジリボン運動を紹介し「虐待を見たり、聞いたりしたら189(児童相談所全国共通ダイヤル)に連絡を!」と呼びかける。仮面ライダーからのメッセージはきっとみんなの心に響くと確信している。
「僕らを見て笑ってくれると、こちらも救われた思いになる」と1号さん。2号さんも「仮面ライダーはずっと続けていきたい」と意気込む。これからも2人の仮面ライダーが行く先々で笑顔の輪が広がりそうだ。【綿貫洋】