政府の旅行需要喚起策「GoToトラベル」をめぐり、感染拡大地域からの旅行が一時停止の対象となっていないことに疑問の声が上がっている。東京都なども「GoTo」の適用から外れない方針だ。「今は経済よりも感染拡大を止める時ではないのか」。逼迫(ひっぱく)した医療現場や介護施設で働く関係者は憤っている。
大阪市と札幌市では「GoTo」が一時停止されたが、対象は両市を目的地とする旅行に限られている。また、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は、東京23区と名古屋市を感染状況が2番目に深刻な「ステージ3」に相当するとしたが、小池百合子都知事は「国が判断するのが筋」との立場で「GoTo」の一時停止を求めていない。愛知県も名古屋市について同様の対応を示している。
「経済への影響を考慮しているかもしれないが、感染予防の観点からはマイナスでしかない」。東京都足立区の等潤病院の伊藤雅史院長は訴える。
この病院では新型コロナの症状を訴えた患者にPCR検査を実施しているが、10月まで週約40件だった検査件数は11月に入って週約120件に急増。救急搬送も増えて厳しさが増している。
先週には観光バスで他県に旅行に出かけた乗客ら3人が陽性となるケースもあった。伊藤院長は「旅行先で感染防止が徹底されているか国や自治体はチェックできない。安全を最優先に考えるなら、東京を含めた規制を早く行うべきだ」と強調し、「GoTo」のさらなる見直しを求めた。
新型コロナの影響で、老人ホームなど介護施設での面会は今も禁じられているところは多い。
全国展開する都内の介護事業者は、東京や大阪など大都市に住む家族が地方にある施設の入所者への面会を希望しても、原則として認めていない。ウイルス持ち込みの可能性があるためで、タブレット端末を使うオンライン面会を使って代替しているという。
職員も感染を恐れて自主的に旅行を控えており、これまで「GoTo」の恩恵を受けた人はほとんどいない。担当者は「職員らへのPCR検査を強化しているが、自費検査に数百万円を費やした。経済を回すことも重要と思うが、検査費の補助など支援を手厚くしてほしい」と要望する。
感染症に詳しいけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は「GoTo」について「現在の感染状況はどこをやめればいいという段階ではなく、いったんすべてを中断すべき段階。政府が旅行を推奨する時期ではない」と強調する。
本格的な冬の到来で感染症が流行しやすくなっているといい、「このまま『GoTo』で旅行を推奨していると全国に流行が拡大する可能性がある」と警鐘を鳴らす。【島田信幸、御園生枝里】