相次ぐ豪雨災害「もうやれん」 集団移転に揺れる流域住民 島根・江の川

この3年間で2度の豪雨災害に見舞われた島根県の江の川流域で、治水対策の転換に向けた模索が続いている。浸水被害に遭った美郷町港地区では5世帯が集団移転を決めた。江津市では従来の堤防整備だけでなくあらゆる対策の総動員を目指す。頻発する豪雨災害に築堤が追いつかない中、住民が納得し安心できる移転先の確保と、経済的な負担軽減が焦点となりそうだ。【萱原健一】
美郷町港地区は江の川と支流の君谷川が合流する。7月の豪雨では、江の川が増水して君谷川の水が滞留するバックウオーター現象などのため地区の5世帯が浸水。住民らはボートで救助し合ったが、2年前も浸水したばかり。避難した集会所で住民らは「もうやれん。逃げるしかない」と一致し、町に早急な対策を要望した。
町は、国土交通省の防災集団移転促進事業を活用し、リスクの低い場所に移す方針を固めた。今年度から国は移転に必要な最低戸数を10戸から5戸に緩和し「事前防災」を推進している。事業主体の市町村が移転先の用地取得や宅地造成をし、国が4分の3を補助する。元の用地を市町村が買い取り、移転費用に充ててもらう。
10月の住民説明会で町は、早ければ2023年度に移転を始める暫定スケジュールを示し、事業を進めることでその場で住民と合意。5世帯は「今しかチャンスはない。子孫のため力を合わせよう」と意思確認した。
ただ、「よそに永住するのは不安」と地区の自治会長、屋野忠弘さん(78)。移転先の希望として地区内の具体的な土地を町に伝えた。「我々の負担金がどのくらいになるのかが今、一番心配」。町は「地元の意向はできるだけ尊重したい」とし、5世帯の希望地も含めて選定を進めている。早急に事業を始めるためにも、年内には造成費の試算を住民に示したい考えだ。
堤防設置の要望も
「集団移転など考えられない。絶対にここから動かん。この年齢になると、よそに移る方がストレスになる」。7月の豪雨で計71戸が浸水した江津市。中でも被害の大きかった桜江町川越地区で酒店を営む原田重信さん(72)はきっぱり言い切る。2年前の西日本豪雨では店が床上50センチまで浸水し、2階から濁流を動画撮影した。再び床上浸水した今年7月は店を出て、より高い所に避難した。「とにかく堤防を早く造ってくれと言いたい」
国土交通省浜田河川国道事務所と江津市は11月、地区で治水対策の住民説明会を開いた。事務所側は、頻発する豪雨災害を防ぐには堤防では限界があるとし、集団移転を含むリスク分散を訴えた。
1953年から国の直轄で進められている江の川沿いの治水事業。事務所によると、堤防整備率は2019年3月末で、広島県側の上流が約69%なのに対し、島根県側の下流は約15%にとどまる。
事務所と市は今秋、堤防のない地域の約350世帯に対し、集団移転の希望の有無などを尋ねるアンケートを実施。約180世帯から回答があり、意見を集計・分析中だ。市は「移転を望む住民には年度内にも個別に詳しい説明をしに行きたい」としている。
川越地区で建設会社を営む福島好文さん(72)は「移転しても仕事はここ。家の近くで農業をしながら生活する者も多い。移れば不便になる」と話す。ただ、美郷町で進む集団移転事業を念頭に「同じ地区内の少し高い所に移れるなら考えるが」と付け加えた。